ハートのかさぶた
私は結構、お父さんが好きな方だ。
梨々花や麻友は自分のお父さんのことを「臭い」だとか「ウザイ」とか言って嫌ってるけど、私は結構好きかな。
優しいし、お腹出てないし。
つい半年前まで海外で単身赴任してて、中学に上がってからは年に一回くらいしか会えなかったからかもしれない。
梨々花も麻友もお母さんとの方が仲がいいと言ってたけど、私は、お母さんは嫌いじゃないけど、なんか、サバサバし過ぎというか冷たい感じがあるので、あまり仲がいい方じゃない。
やっぱり、お父さんのほうがいいかな。
でも、単身赴任から帰ってきてから、お父さんの様子が少し変。
朝、制服でご飯食べてると、なんか私の事ジロジロ見るの。
あ、別にエロい目で見ているわけじゃないよ。
不思議そうな目で私のスカートやハイソを見てるの。
「お父さんが高校生だった頃は女の子はみんな、ダボダボのロングスカート履いてたからね」と、お母さんは言う。
お父さんとお母さんは同い年で、結構、歳行ってから私を産んだから、同級生のお父さんやお母さんより年上だけど、私の両親の方が若く見える。
授業参観の時も、「高橋の母ちゃんきたぞー」って男子はよく騒いでた。麻友も「那奈のお父さん、若くていいなー」って褒めてたし。
ちょっと(*´ω`*)
で、お父さんとお母さんが若かった頃は、「ビーバップ」とか「つっぱり」とか流行ってたそう。バラエティーで話だけは聞いたことがあるけど、男子はヤンキーの方がモテたみたい。
お父さんはスカートが長いほうが好きなのかなぁ?
ある時、お母さんに聞いてみたら「そんなこと無いんじゃない?男はみんなミニのほうが好きよ」とサバサバ発言。
「お母さんも長いスカート履いてたの?」
「お母さんはフツウよ。みんながみんな長いスカート履いてたわけじゃないの。でも髪型は大抵、聖子ちゃんカットだったなぁ。お母さんはショートのストレートだったけど」と今度は意味深な微笑み…。
私は可愛かったから、みんなと同じ格好はしないの、ってカンジ。そういうところがお母さんの可愛くないところだ。
お父さんの方は最近、益々ぎこちなくて変な感じ。
会社で何かあったのかなぁ。ちょっと心配。
心配といえば、私も今日怪我をしてしまった。
学校のドア枠を止めるネジが飛び出てて、そこに肩を打っちゃって、血が出てしまった。血はすぐ止まったけど、跡残りそう。
それから数日して、肩の傷は治った。学校でペロリと絆創膏が剥がれたので、傷を触った見たら、キレイなかさぶたになっていた。
それを見た梨々花が「あ~、可愛い〜」と嬉しそうに言った。
何が可愛いのだろうと思っていると、
「キレイなハート形してる」と梨々花。
「あ~、ホントだ。かわい~」と麻友が近づいてきた。
私からはかさぶたがよく見えないので、四苦八苦していると、麻友が手鏡を貸してくれた。
手鏡を見ると本当にハート型のかさぶたが左腕にくっついていた。
「可愛い〜、ねぇ、写メ撮らせて」
「私も〜」
クラスの皆も寄ってきて、あちこちから写メを撮られた。
家に帰ると、珍しくお父さんが早く帰っていた。
今日は家族揃って夕食かぁ~。嬉しいな♡
嬉しかったので、お父さんにもかさぶたを見せて上げた。
「お父さん、いいもの見せてあげる」
私は制服の半袖をめくり、ハートのかさぶたをお父さんに見せて上げた。
すると、お父さんの顔が真っ青になった。
「どうしたの?」
お父さんは私の腕をガンミしたまま固まってた。
「お父さん?」
「ああ、これ、跡残るんじゃないかと…」
「大丈夫だよ。一週間もすれば跡形もなくなるよ」私が笑って言うと、
「一週間…、そうだよな…」と言って、そのまま書斎にこもってしまった。
「へんなの」私はお父さんの背中にあかんべーをした。
でも、夕食になっても、そのあとリビングでラインしながらテレビ見てても、お父さんは書斎から出てこなかった。
私は自分の部屋に上がり、予習をして、受験勉強の方にシフトする前に何か飲み物を飲もうと、キッチンに降りた。
すると、リビングの灯りが付いていて、何やら話し声が聞こえた。
私は、そおっとリビングを覗いてみた。
すると、お父さんが背中を向けてソファーに座ってて、ウイスキーの瓶を前に、琥珀色の飲み物が入ったグラスを固く握ってた。
お父さんの肩はがくんと落ちて、項垂れてた。
その横にはお母さん。
「陽子、お前、最初から…」
「そうよ、他にどうすれば良かったの?本当に一人だったのよ」
「そうだな、すまん」
「だけど、俺は…、な、な、…」
「それ以上言わないで」
私は見てはいけない物を見てしまった気がして、足音を立てないようにそっと部屋に戻った。
お父さんとお母さんは高校の頃、出会いその後、そのまま結婚したというラブラブな関係だ。喧嘩したことなんて見たことがない。
何か喧嘩してたのだろうか。
翌日、私はお母さんに命令されて、家中のゴミ箱の中身を集めさせられた。
お父さんの書斎のゴミ箱を大きなゴミ袋に詰めていると、かなり古いノートがゴミ箱に入っていた。
なにかと思って、パラパラとページを捲ったら、お父さんの古い日記みたいだった。
他人の日記を覗き見るのは、後ろめたかったけど、ゴミ箱に捨てられてたものだったし、お父さんの昔のことにちょっと興味があったので、「捨ててあるんだから、いっか」と自分を納得させてこっそり自分の部屋に持ち帰っちゃった。
その夜、勉強が一段落して、お父さんとお母さんが寝静まった後、こっそりお父さんの日記を開いた。
9月12日
高畑と岡本たちとイデオン論議。
岡本はガンダム信者だから、哲学は難しいのかもしれない。
9月15日
今日、2組に転校生が入ってきた。3年のこの時期に大した進学校でもないのにどうして入ってきたのだろう。なんだかちょっと変わった娘だ。
お父さんの日記は、こんな風に日記というよりメモ書きに近かった。
9月16日
2組の転校生は米田というらしい。休み時間ごとに階段の屋上へタバコを吸いに行く時に必ず踊り場に出ている。本当に変な娘だ。
へ~ぇ、お父さん、高校の頃からタバコ吸ってたんだ。そこそこ悪いことしてたんだね。バカ真面目じゃなくて良かった。
9月17日
今日も踊り場に米田がいた。東京から越してきたみたいだが、本当にあんな格好が東京で流行っているのだろうか。スカートは膝上どころか股に近いし、ソックスも巻かずに膝まで伸ばしている。髪の毛は染めたり聖子ちゃんカットしないで、真っ黒なストレートだ。しかも、気持ちが悪いくらいピカピカ光ってる。枝毛みたいな飛び出た髪の毛が一本もなくてカツラみたいだ。
お父さん、この米田って娘、気になってる。恋しちゃうのかなぁ?でも、この時聞代にもミニスカの娘いたんだ。ソックス巻くとか意味分かんないけど、後でお母さんにいてみよう。
9月21日
今日も米田が踊り場にいた。
俺に気づくとじっと見つめてきた。
俺が「よっ」と挨拶して通りすぎようとすると、「ちょっと待って」と言われた。
俺が振り返ると、陽子は制服の半袖をめくり上げた。
「いいもの見せてあげる」
陽子の肩にはキレイなハート型のかさぶたがあった。
その後のページは破られていた。
お父さんとお母さんは高校の頃、出会ったという。
そういえば、お母さんの名前も陽子なんだけど…。
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