第8法 没落皇子は語る

 変わった様子のないお茶を啜りながら皇子は言った。


「それで、次の任務は何なわけ?」

「次の獲物は――学園だ」


 本来裏魔法社会は鋼の欽定さながら、の存在を葬ってきた。


 だがしかし、今回は違う。


 学校といういわばの存在を潰す。


 これにどんな意義があるのかは分からない。しかし、決してクリーンではない。


「学園ですか……。どこの学園です?」

「魔法学園だ。国内唯一の」


 一つ。


「どうして、また――」


 二つ。


「『天上天下・唯我独尊』」


 世界が一時的に解離された。歪んだ。一見黒一色に染まったように見えたが、反転。今は何かの裂け目のように見える。


 グニャリとしたその場に静かに佇む悟は一言、


「分かったか?」

「はい、承知しました」

解除リベレイト」 


 魔法によって世界が歪む。そんな大きな事象を目前にした皇子。だが、中心人物である悟は既に颯爽と姿を消していた。


「…………」


 †


 僕は、夢を見ていた。


 あの日、あの空の下で。


 蒼天の大地に広がるは焔に燃ゆりし怨恨。


 天衣無縫。


 そのとき僕が見た魔法使いは、そう表しざるを得ぬ存在だった。


 切り開かれし大地の歪みに嵌まった僕。逃げ惑いそこかしこに動き蠢く人々。


 そこにたった一人。移り行く影に潜む曙があった。


 差忍ばされた手を取ったその日から――僕は皇子となった。


 考えれば可笑しな話だ。何故皇子になった? 経緯は? もう忘れた。でも、その道にすがった僕を、神がここまで導いてくれたのかもしれない。


 一重に『神託オラクル』のお陰だ。


 あの日、あの空の下。


 あの子は――死んだ。


 なのに今、生きている。ようやっと、探し求めれたその光の影。


 見つけたよ、舞姫。


 今日の空は、晴れだ。


 † 


 ハクトは彩翔に急かされ、魔法の特訓をしていた。大会本番で勝って成し遂げるべき栄光があるハクトはその特訓に快く承諾した。

 

 ハクトは思った。


 ――どうしてこんなにも強いのか、と。


 一つ一つの洗練された淀みのない動き。初級魔法の応用や数多の上級魔法。

 少しだけ中級魔法の使えるハクトには到底敵わない動きだ。


「『アンプレディクト』!」

「うぐっ!」


 床から伸びる棘に身動きが出来ない。


 彩翔は少しだけ身を屈め右拳を後ろにたなびかせ――八景。手から出る炎の渦に身動きが殊更に難しくなった。

 そして、ハクトは地に鎮座した。敗北だ。


 ハクトは正直いって、かなり悔しがっている。何せ、学園内ではトップ50に居座っているからだ。


 魔法体育館の回復機能により、通常より一層厳しい動きが出来る。

 それを利用した激しい特訓にハクトの身のみが癒えた。


「彩翔、ありがとね。正直慣らしにすらならないんじゃない?」

「そんなことないよ。ここまで出来るのはハクトの動きが俊敏で強いから。下手をしたらすぐにでも負けを見てたよ」


 実際そうだった。途中までは拮抗した戦いが繰り広げられていた。

 しかし、道程で『アンプレディクト』に引っ掛かったハクトはそこで敗北してしまったのだ。


「またよろしくね、ハクト」

「ああ!」


 敗北者の心情を微塵も知らぬ彩翔。

 

 二人の間に溝が出来つつあるのは明らかと言えるのかもしれない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女だった俺はとりあえず学園のトップを目指すことにする 凱蘭 @gailan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ