雪が舞い桜が舞う
はくのすけ
第1話
「道混んでるね」
助手席で妻が言う。
「仕方ないね。今が一番混む時期じゃない?」
「そうだけど……」
詰まらなそうにスマホをいじる。
「酔うよ」
「うん。大丈夫」
もうスマホに夢中で人の話は聞いていない。
やがて車が山の麓まで来た。
山に続く橋を渡る。
四月七日、八日で夫婦で裏吉野に桜を見にやってきた。
シーズンだけあってかなりの込み具合。
ただ、今年の開花は早く、この日にはもう殆ど散っていると噂で聞いた。
しかし、宿も取っていることだし、行くことにしたのはいいが……
やっぱり渋滞は苦手だ。
全然進まない。
助手席に乗っている妻はいつの間にか寝息を立て始めた。
渋滞の中、やっと車が吉野の山に入る。
曲がりくねった道をひたすら進みと、小さなトンネルがある。
トンネルを抜けて本来なら右折するのだが、シーズン中は混雑時の事故を避けるために一方通行になっている。
仕方なく左折し、さらに山の中に入る。
山の中だが、観光客の数が物凄く、車を進めるのには細心の注意が必要だった。
やがて宿から指定された駐車場に到着する。
四月になったと言うのにこの日は真冬並みに寒く、薄着を着てきたことが後悔された。
車を停めて荷物を持ち、宿まで歩く。
宿までの道に豆腐屋が屋台を出していた。
匂いに釣られて観光客でごった返していた。
「豆腐食べたい!」
目を輝かせながら言った。
「まず宿に行ってからね」
僕が言うと
「えー今食べたいのに」
頬を膨らませる妻。
そんな妻を無視して宿に急ぐ。
妻は仕方なくついてきた。
宿に到着すると、座敷に案内されあったかいお茶を頂く。
そこで夕飯の時間やお風呂の時間、翌日の朝食の時間を聞かれ答えた。
部屋に案内され荷物を置くと早速妻が、
「よし、見て周ろう!」
かなりノリノリのハイテンションで言う。
妻に連れられて宿の周囲を見て周る。
宿の周辺には沢山のお店が並んでいた。
そのお店の前は道路なのだが、シーズン中は時間で車の制限が掛かっていた。
僕たちは桜そっちのけで店を周る。
「タケノコの天ぷらある!食べたい!」
「はいはい」
妻と二人でタケノコの天ぷらを食べる。
はっきり言ってかなり美味しかった。
「葛餅!買って帰る!」
葛餅を買う。
その後も豆腐の豚まん、揚げ出し豆腐など食べ物ばかりを買った。
着いた時間が遅かったせいか、車規制が解除される時間になる。
僕たちは山の上のほうまで行くことにした。
沢山の桜が既に散っていたが、まだ残っている桜もあった。
二人でそれを眺める。
段々日が暮れて吐く息が白くなっているのが分かった。
空から花びらが散ってきたように見えた。
「まるで雪みたい」
妻が言う。
「そうだね」
僕が答えると
「……これ、雪だよ」
「え?」
雪が舞い降りて来ていた。
桜の花が舞う中で雪も舞い降りる。
なんとも不思議な現象。
「なんか綺麗だね」
僕が言うと
「寒い!絶対服装失敗した!」
とムードをぶち壊す一言を言う妻。
「寒いから宿に戻ろう!」
言われるままに宿に戻る。
宿に戻って夕食を食べる。
夕食はアユの塩焼きに鴨の鍋、野菜の天ぷらに山菜の和え物など豪華な食事を頂いた。
夕食後はお風呂に入り、上がるとそのまま二人とも眠りについた。
翌朝、朝食を済ませ、『奥千本桜』を見にバスに乗る。
山道をゆっくりとバスが移動し、到着するとなんと桜吹雪では無く、本当の吹雪だった。
それでも桜は綺麗で圧倒される。
随分散っているみたいだが、そこは千本桜と言われるだけあってまだまだ残っていた。
帰りはバスには乗らず徒歩で桜と雪を堪能して戻った。
宿付近まで来て、小腹が空いたので桜うどんを食べる。
ほのかに桜の香りが春を感じさせる。
妻は桜うどんを買って帰りたいと言っていたが、どこにも売っていなかった。
仕方がないので桜そうめんを買うことにした。
そして僕たちは大阪の家に帰る。
帰りはあまり渋滞もなく、二時間弱ぐらいで家に到着した。
その日の夕食は『桜そうめん』と『柿の葉寿司』を食べた。
こうして僕たちの二日間の旅行は終わった。
桜に雪ととても不思議な体験をした旅行だと感じた。
雪が舞い桜が舞う はくのすけ @moyuha
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