超能力がありふれた世界で俺が手にした超能力はとてもおかしなものでした

@yutannposanndesu

第1話 喧嘩屋と番長と生徒会長

――午後四時半頃、校舎を全力で走る幾いくつかの影。


先頭を走るのは、自称平凡な学生 ウー

ウー はあだ名だ。名前をいじってつけられたのだが、一体誰が考えたんだこんなくそダサいあだ名。


そんな話はさておき、高校生にもなって、元気よく校舎内を駆け回る者達の先頭で、俺は走っていた。


いや、先頭ではない。俺は仲良しこよしの鬼ごっこをしている訳ではない。そう、それは――


「てめー、待ちやがれ!」


炎や氷、風に雷、色んな物が飛んでくる命懸けのおいかけっこ。


そう、この世界では、炎や氷、風に雷を操るやつなんか不思議じゃない。むしろ王道なやつほど操れる人が多い。


そんな炎や氷、風に雷を操る人を『超能力者』と呼び、その『超能力者』が操る不思議ーな力は勿論、『超能力』と呼ばれている。


そんな超能力の発端はある国。どっかのアホな研究者が発見した、人間の脳の使われていない部分。

そこをあーだこーだして、ついに!超能力の開発に成功した。

たちまち超能力は世界に広まり、生活が便利になったりした―


だがしかーし、これは誉められた物ではない!そのせいで世界は混乱、超能力を悪用する輩が出てきやがった。


一端の超能力者ならまだましだ、だが今のこのご時世になって、炎や氷、風に雷を操る能力よりも、使える者が少ない能力の方が厄介だと分かってきた。


使える者が少ない超能力、例えば、

相手に一つだけ命令することができ、命令された相手は絶対に命令されたことを行わなければいけない能力。


相手の超能力を模範し、模範した超能力を自由に使える能力。


だが、この能力は『希少能力』と呼ばれ、1000万に一人が使えるかどうかだ。


・・・もう分かっている人も多いだろうが言っておこう、

そうこの俺、ウーも希少能力を扱う者の一人である。


俺の希少能力、どんな物だと思う?


模範能力?命令能力?それか攻守に特化したライトノベルの主人公のように、無双できる能力?


・・・ぜーんぶ違う、そう、俺の能力はとても物語の主人公になれるような能力じゃない。


俺の能力は―――『相手に喧嘩を売る能力』


この能力、自分を強化したり、なんか炎をぶっとばしたりするような力はない。読んで字のごとく、ただただ相手に喧嘩を売るだけの能力だ。


そんな能力のせいで、おれは一部からこう呼ばれている。


『喧嘩屋』と、


さーてここで、この能力の発動条件を説明しよう。


条件その一

喧嘩を売る相手が、自分の半径10m以内にいること。


条件その二

相手に対して、相手が怒るアクションを起こすこと。やることは大小関係ない、相手を挑発したら即発動。少し当たっても発動したりする。


この二つのみ。

その他の特性もあるが、それは追々説明するとしよう。


さて、ここで問題だ。

俺は今から数十分前、自販機で飲み物を買い、日々の日課、友達とチェスをするために教室に向かっていた。


俺の教室は三階、新一年生の時から階が変わらないのに苛立ちを覚えながら、階段を一段ずつ上がっている最中に事件は起こった。


そう俺は、階段を踏み外した。


落下した所にいたのは一年生の女子・・・

俺はその子のスカートの中を覗いてしまった。


これはなんというラッキースケベ!なんて思っている暇はなかった、その子の彼氏、だと思う男に喧嘩を売るアクションを起こしてしまった。


さあここから鬼ごっこの開始だ。

俺はまず、全力で階段を上がった。のが間違いだった!逃げた階では何かしらの部活動の集まりがいた!


後ろから全力で追いかけてくる男!

俺はその部活動の団体を避けながら突っ切った、つもりだった

俺は突っ切る最中に、四人とぶつかったのだ。


さて、これも喧嘩を売るアクションだ。

これを数十分続けたらどうなると思う?


もう鬼ごっこのレベルではない、戦争だ。


そんな戦争からどうやって逃げ切るのか、

さてここで、俺の心強い仲間を紹介しよう


俺の幼なじみ 霧隠(きりかくし) 裕翔(ゆうと)

俺の能力が適応されない数少ない人物の一人だ。


俺の能力にはある特徴がある



特徴その一

長くときを共にした者は、能力が適応されない


特徴その三

血が繋がっている者には、能力が適応されない


特徴その二

能力の効果は約一時間、過ぎれば相手の怒りは治おさまる



特徴その一については、いつから適応されなくなったのか分からないが、小学生六年生になる頃には適応されなかった事を考えると、だいたい十年位だ。


そんな事はさておき、俺は正直、裕翔がいないともう死んでいたかもしれない。


そう、裕翔の能力は、俺・・・、いや、人を隠すのに特化した超能力なのだ。


先頭を全力で走る俺の前には、うっすらとした霧が出ていた。

俺は、それを待っていた。


全力で霧に突っ込み、近くにあったロッカーの中に入ると、皆がそれに気づかずどこかへ走り去っていった。


神隠しの霧インビジブル

俺は何度この超能力に助けられるのだろう・・・

そんは果てしない事を思いながらロッカーから出ると、ロッカーの上に、裕翔はいた。


「よ、ウー。またいつものか?」


「あぁ、いつもすまねーな」


「いいってことよ・・・。それはさておき、俺が頼んだコーラは?」


「あ・・・」


自分もすっかり忘れていた。あの時俺が持っていた飲み物はどこへ消えたのか。いや分かっている、恐おそらく、最初に俺がアクションを起こしたところだろう。


無論、そこに戻っても、もうコーラはなかったのだった。



「おい、どーしてくれんだ俺の百六十円」


俺と裕翔は教室に戻り、チェスをしていた。


「悪い、また後で買ってくるから」


「いいよ、いつもの事だ。あ、あと何分位で大丈夫なんだ?」


「あー、あと三十分位だな」


「そっか・・・。チェックメイト」


「な!?」


たださりげない会話をしてたらもう負けた。これで俺の0勝 百三十六敗 0引き分け一度でいいからてを抜いてもらえないだろうか。


そんな事を思いつつ、もう一度勝負しようと駒を並べ直していたその時、突然扉がガラガラと音をたてながら開いた。


「えーと、どっちが ウーって奴なんだ?」


『神隠しの霧』で見えていないはずの俺たち二人を、その男はしっかりと見えているような口ぶりだ。いや見えているのか。


「俺だけど、何か用?」


「おー、お前が ウーか。よし、黙ってついてこい。あとお前、お前も一応こい」


・・・こいつなぜ俺たちが見えている?と思ったが、理解した。こいつの能力、多分霊視だ。


俺たち二人は今、幽霊と同じ状況下におかれている。

簡単に言えば、この世とあの世の間はざまの空間にいるのだ。


だから能力が霊視の奴は、『神隠しの霧』が適応されない。


そして、今俺たち(主に俺)が抵抗すると、まためんどくさい事になってしまう。


こうして俺たち二人は、ある所につれていかれた。



県立、城世東高校じょうせいひがしこうこう旧校舎きゅうこうしゃ。五年前まで部室棟ぶしつとうとしてつかわれていたが現在は使われていない。その変わりとしてか、今は不良の溜まり場と化している。


もうここに連れてこられた時点で用件はわかっていた。多分俺がこいつらの頭ボスに肩でもぶつけたのだろう。



その予想はその通り、見事に的中した。


「それで、お前どうするの?ここで裸にでもなる?」


「ギャハハハ!裸にして首輪つけて、校内歩かせようぜ!四つん這いでな!ギャハハハ!」


気づけば俺たちは、いかにもという不良達に囲まれていた。

このご時世に、「サザエさんみたい」と言うとガチキレしそうな高校生と同じ髪型の奴がいるとはにわかに信じがたいのだが、今目の前にいるから心のなかで言おう。


そのヘアスタイル、サザエさんみたい。っと。


「てめぇら、少し黙れ・・・」


さて、ここでこいつらのボスのご登場だ。


こいつらのボスはあまりにも有名で、風の噂によると、指名手配もされていると聞くが、本当にされてそうな風格である。


「こいつは俺一人で遊ぶ、お前らはそこにいるもう一人で遊んでろ」


さて、どんどんヤバい状況になってきたが、今俺は、この状況を一気に変える方法を思い付いた。


実行してもしないでも、結果は地獄になるのは変わりないのだが、やらないよりはマシになるのを願おう。


「裕翔、解除しろ」


「・・・は?」


「早く霧を解除しろ!」


もう、どうにでもなれだ。


本校舎の北側の二階、場所的には理科室等がある所で大きな爆音と共に、地響きが起きた。


さぁ、地獄の始まりだ。


「おい、なんだあいつら!?」


気づいた時にはもう遅い、俺に怒りを向ける奴らのご登場だ。

そして、この不良達は、俺に向かってきてるとは知らない。

ただ自分達に喧嘩を売っていると思うだろう。


そこにつけこむ。


こっちの犠牲はゼロ、そしてこの場から逃げれる簡単な方法。


俺と裕翔はもう一度姿を消し、その場から離れた。


元いた教室に荷物をとりに帰り、旧校舎に目をやると、爆発が起こったり旧校舎が崩れたりとなんかもう世紀末のようになっているのが分かった。


さて、ここからが問題だ。

どうやって治めよう・・・。


一時間経つと自然に俺への怒りが消えるが、不良共の今暴れている一般生徒に対する怒りが消えることはない。


そこで一つ提案がある。

こんなのはどうだろうか、


作戦その一

まず不良達は一般生徒達に何とかして倒してもらう


その後怒りが消えるまでの二十分を見つからずに過ごす


二十分経ったら旧校舎(跡地)に向かい、協力者に不良達の記憶を消してもらう


作戦そのニ

俺がもう一度旧校舎に出向く


不良供を説得し、一般生徒を連れてどこかへ移る



・・・だめだ、作戦そのニは絶対だめだ。


と、いうことで、作戦はその一に決定した。


そのためにはまず人員の確保――


この時、俺が予想すらしていなかった事態が起こった。


窓から差し込む夕焼けの光を、何かが遮った。

一瞬鳥か何かかと思ったが、もっとヤバいものだと分かるのにはそんなに時間がかからなかった。


この学校の番長、剛腕(ごうわん) 剛(つよし)の登場だ。


「ちょこまかと逃げてんじゃねーぞ・・・」


「・・・裕翔、お前はあいつら呼んでこい」


「リョーカイ」


さぁ、作戦開始だ。


まず現状の把握。

この男、霊視も無しに俺の事を見ているのか?元々そういう体質なのか?それとも誰かが霊視をかけてるのか?分からないがヤバい現状に変わりはない。


俺は鞄に手を伸ばし、ある物を手に取った。


こんな時の護身用、『折り畳み式木刀』。

昔からやっかい事に巻き込まれる俺を心配し、父が作ってくれた物だ。固さは折り紙つきで、モース硬度8だ。


よく分からない人は、とにかく硬いと考えてくれ。


さてさて、そんな武器えものを持ったところで太刀打ちできるのか?答えは簡単、できる訳がない。


だがしかーし、俺は幾度となく問題事に巻き込まれたかいがあり、ある特技を身につけた。それは――


相手の攻撃を受け流す


剛の飛ばしてくる瓦礫等を的確にさばき、拳も蹴りも、全て受け流す。のが理想なのだが、実際の所何発か瓦礫が当たった。


相手を倒さなくていい、逃げればいいんだ。

と考えた末に身につけた特技だが、我ながら凄い特技だと思う。だって、こんなにも時・間・稼・ぎ・に適した特技はないのだから。



―裁きの光―



突如剛の上に光が差し込む、その光はまさに、神が人に下す天罰のように、剛に降り注いだ。

光が直撃した剛は、そのまま一階まで突き抜けていった。


やつら・・・、生徒会のおでましだ。


この超能力が普及した世界では、銃や警棒などは役立たず。

警察も超能力を使えばいいのだが、凶悪犯を捕まえるとなるとかなりのリスクを負う。


そこで国は考えた、ならば、最強の超能力者を作り上げよう、と。そこで生まれたのが生徒会、小中と地獄のような訓練過程をクリアした選ばれし者が入れる生徒会は、各学校に設置され、その学校や地域の取り締まりを行っている。


ようは、今現在、日本最強の勢力だ。


「全く、また君の能力が原因かい?」


「ったく、騒ぎは結構前に起こったんだ、もっと早く来いよ」


「すまない、私達は君ほど暇じゃないんだ」


憎まれ口を叩くこの男は神条(かみじょう)神矢(しんや)。

この学校、いや、全国に数千人存在する、生徒会長の一角だ。


「いや実のところ、旧校舎で騒ぎがあったと聞いて駆けつけてみれば、そこで不良供と一般生徒とのガチバトルが勃発していてな、とりあえず全員『裁きの光』で鎮めたんだがな」


「あぁそうかい、あんがとよ」


おい、それは鎮めるじゃなくて沈めるだ!と心の中で突っ込みを入れながら、俺は一応感謝を伝えた。


「いや、感謝するのはこっちの方だ。実はこの男、生徒会本部から確保せよとの命令が下っていてな、でも、この男は並の生徒会員より強いから手を焼いていたんだ。話せば長くなるが――」


要約するとこうだ、

剛腕 剛は、数々の問題行動で生徒会本部から確保しろ命令が下っていたが、並の生徒会員では太刀打ちできず、手を焼いていたらしい。


一度 神矢も確保に出向いたそうだが、ことごとく

―裁きの光―が避けられたそうで、その時は撤退したらしい。


だが今回は、俺の超能力のおかげで俺一人に意識がいっていたのもあり、比較的簡単に確保できたそうだ。


プルルルルルルル――


「はい、こちら神条かみじょうです。はい、はい、分かりました、今から向かいます」


「どうした?これから何かあんの?」


「すまない、本部からの呼び出しだ。もうすぐ他の生徒会員がここに到着する、不良および、一般生徒の記憶はこちら側で削除しておく、お前はもう帰っていいぞ」


そういうと、神条は窓から外へ飛び出ていった。



「はぁー、疲れたー」


「疲れたはこっちの台詞だ、やっかい事に巻き込みやがって」


「はいはい、悪ーございやした」


俺と裕翔ゆうとの家は隣同士、という訳で毎日共に下校をするのだが、絵面的にどうかと思う。そんな事を毎日思いながら帰っていた。


「んじゃ、また明日な」


「おう」


これ以上にやっかい事は起きてほしくない、そう願ったのだが、今日なんて、やっかい事の連鎖における、最初の序章に過ぎなかったのを知るのは、これよりも後のお話であった。

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