蓬莱島

安良巻祐介

 

 病気で長いこと臥せっていた友人が、妙なことを言いだした。

 体の中に、島がある。と言うのだ。

 腹の中に空があり、見渡す限りの青い海が広がっていて、そこにぽつりと、島は浮かんでいるという。

 病院のベッドの端に腰かけて、薬に痩せた顔で、部屋のどこか高いところを見つめながら、友人はそんなふうに話した。

 島には緑が多く、人もいくらか住んでいるらしい。

 雨が降ったりはしないのか、と尋ねると、いつも雲一つない晴れだよ、と頷く。

 昨日は島のどこかでお囃子が鳴っていた、とも言う。

 そういうようなことを知ったら、少し楽しくなったんだ、と、笑った。

 それから一月の後に、彼は死んだ。

 死に目には会えなかったが、骨を拾う時、身体の真ん中あたりに、細長い、地図のような焦げ跡を見つけた。

 火葬場の外へ出て煙草を一本吸いながら、彼はきっとあの島へ行ったのだろう、そう思った。

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蓬莱島 安良巻祐介 @aramaki88

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