超能力を得たけれど
「あのさ」
「ん?」
昼食時間の僕と友人の会話はいつもこのフレーズから始まる。いつもなら「どうして人は争うのだろうか」「人はなぜ生きているのか」といった哲学的な命題を掲げ、「争いたいから争うんだろ」とか「生きてたいから生きてんだろ」など無意味なトートロジーを帰結する不毛な与太話に花を咲かせるのだが、今回は毛色が違った。
「俺、超能力使えるようになったわ」
あんまりにも淡々と話すものだから僕の思考は一瞬停止しかけたが、なんとか言葉を続けた。
「今度はなんの本を読んだんだ?」
このバカがトンデモ話をはじめるのは大体本に影響された時だ。大方昨日妄想が香ばしいweb小説でも読んだのだろう。
「違うって、マジなんだって」
「マジも何も証拠がないだろ、証拠が」
「じゃあ、これ見てみろよ」
そう言って、友人はボールペンを取り出した。指でつまんで顔の目の前にペンを持ってくると、友人は上下に揺らした。
「ほれ、見てみろ!硬いペンがぐにゃぐにゃだぞ!」
確かにペンがぐにゃぐにゃしている…ように見える。
「……これは目の錯覚な。なんたら現象って名前のあるやつ。昔テレビでみたわ」
「……あ、そっか」
それを聞いて友人は手を止めた。止めた瞬間ペンが曲がったままだったような気がしたが、すぐに戻ったので気のせいだろう。
「じゃあ、これならどうだ!」
今度は下敷きを取りだし、頭に擦り付けた。しばらく擦った後、それを持ちあげると髪が立ち上がった。
「……それはフェンデルワールス力、お前にも分かるようにいうと静電気な」
「ぐぅ……」
またいつものアホ話か。超能力とか言って、小学生レベルのネタじゃねぇか、くだらねー。まあ別に期待してなかったけど。
「くだらねーとかゆーなー!!」
友人が怒鳴ると同時に友人の髪が怒髪天をついた。比喩でもなんでもなく、文字通り。
「あばばば、あちゃちゃ」
友人は髪に帯電した電気に感電し、その摩擦で髪が発火した。自分でも何をいっとるのか訳分からんがこれだけは言える。
「……マジで超能力?」
「だからさっきから言ってるでしょうが」
僕の友人はバカである。そして現在、超能力者である。
短編 細川俊樹 @ahonokotossan
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