エピローグ
僕の小さな頃の夢は何だったのだろう?
思えば特に夢という夢は持ってなかった気がする。
剣の腕前に関してはそれなりに自信があったけれど、それを生業にしようとも特に思っていなかった。
片田舎の小さな村で生まれ、それなりに平穏な日々を過ごし、何となく両親と同じような仕事で生計を立てると思っていた。
別にそれに対して僕は不満は無かった。
多分、多くの人もそうだろうし、何か目指す目標もなかったから。
世間を騒がせていた魔王の噂も、その時は自分とは関係の無い事だと思っていた。
だけど、僕の大切な人はその平穏な日々に不満があって、僕を連れ出して村を飛び出した。
そして彼に出会った。
夕暮れの森で出会った彼は、遠くの世界からやって来たと言う。
最初は信じられなかったけど、彼の話は僕の中に眠っていた外の世界への興味を掻きたてた。
その後、二つの大きな事件を経験して僕達は旅に出た。
最初は彼を目的の街へと連れて行く序でに、ちょっと僕も外の世界を体験したかった。本当にそれ位の気持ちで。
でも、その旅は本当に長い旅になった。
自分の事、世界の事、他にも多くの事を知り、友達に勇者の名前を貰い、魔王と星の未来を賭けて戦う。
そんな昔の僕では想像も出来ない様な旅から、今はもう七年が過ぎていた。
魔王を打ち倒した僕達は、涼の復活の為に消えた愛莉ちゃんを助ける方法を探し旅に出た。
愛莉ちゃんの魂がある筈の場所から戻ってきた涼の話を元に、その場所への交信手段を探し、その後はそこへ行く為の方法を探求し続けた。
その道の途中、僕とリーナの間に子供が出来た事で僕達は旅から抜ける事になった。
僕だけでも協力しようと思ったけど、涼が「親は子供と居るべきだ!」と言ってくれたので、僕とリーナは彼等の旅の終わりを新しい家族と共に待っていた。
そして一週間前、涼達は旅の目的を果たして帰ってきた。
彼等の帰還を世界中が祝福し、二人の勇者が再び人々の前に並び立つ。
これでようやく……と言いたい所だけど、僕と涼には目的を果たしたらやると決めていた事があった。
そう、決着を付けたい戦いが……
空の開いた会場は大きな盛り上がりを見せている。
もっとも、これから戦う二人のを考えれば、この会場は単に戦いを始める場所に過ぎないのだが。
司会を名乗り出たラウロが、マイクを引っつかんだ。
「おいコラ野郎共!盛り上がってるかー!!!」
「イエーーーー!!!!」
「俺たちゃ七年待ったからな!もう我慢ならねぇから前口上無しに始めちまうぜ!!」
目の前にあるスイッチを思いっきり殴り、会場の二つの門が開き、会場の周囲に花火が打ち上がった。
「世界を救った偉大な勇者二人に、男なら誰でも思う疑問の答えを得ようじゃねぇか!!!」
会場の地鳴りの様な歓声を聞き、ラウロがその疑問を渾身の声で叫ぶ。
「それでよぉ……テメェ等どっちがつえぇんだぁー!!!!!?」
開いた門の片側でレオと、鞘に収まった剣を持つお腹の大きいリーナと、青い髪と赤い瞳をした幼い少女が居た。
「なんか盛り上がってるわね」
余りの盛り上がりっぷりにリーナがちょっと呆れている。
「まぁ、それだけ色々な人が待っててくれてたって事だよ」
そう話ていると、幼い少女がリーナの服の裾を掴んだまま、レオの服をちょいちょいと引っ張った。
「ねぇねぇ、パパの相手って二人なの?」
「そうだよ、リタ。パパの大切な友達さ」
腰を下ろしてそう答えると、レオの娘であるリタは顔をむすっとさせた。
「パパは一人なのに、相手は二人ってずるい!」
可愛らしい表情で怒るリタを見て、レオが思わず笑ってしまう。
「もー!パパがそんなだから相手の人がずるするんだよ!ママもそう思うでしょ?」
話を振られたリーナが「そうねー」と微笑んだ。
「ママもリタと同じくそう思うけど、パパはどう思ってるかしらね」
また何時もの様にリーナは娘の味方に付き、レオを困らせている。
「そうだなー……相手の人はずるじゃないよ」
「えー、なんで?」
「だってパパはリタもママも、今度生まれるリタがお姉ちゃんになる子も付いてるからね。向こうは向こうのママも付いてるけど三人、ほらパパの方が人数が多い」
そのレオの理屈にリタが「そっか!」と納得した。
「じゃあ、リタも応援するから絶対に勝ってね」
「ああ、約束する」
娘の頭を撫でてからレオが立ち上がる。
そのレオへとリーナが持っていた剣を渡した。
「はいこれ、アンナさん達と一緒に作ったアンタ専用の星の剣。エイミーには悪いけど、これでリョウの事なんてボッコボコに叩きのめしちゃいなさい」
受け取った剣を鞘から取り出し、その輝く刀身を見てレオが頷く。
「うん、じゃあ行って来る」
「「行ってらっしゃい」」
家族に見送られ、レオが門から出て行く。
逆側の門の方で涼と、エイミーと、猫耳と尻尾が無くなり、エイミーと同じく青い瞳になっている愛莉が居た。
「よっしゃ、この日をどれだけ待ったことか」
「マスター、気合入ってますね」
腕をぐっとさせる俺に愛莉が笑顔を向ける。
「そりゃ大分楽しみにしてたし、目標だったからな。後、マスターは止めろって言っただろ?」
そう言うも、愛莉は首を横に振って聞かない。
「マスターは私のマスターです!」
何故だか「えっへん」と誇らしげに言われた。
愛莉がこの世界に戻ってくる際に、足りない部分をエイミーの命に補ってもらっている。
猫耳少女じゃなくなったり、目の色がエイミーの物になっているのはそのせいだ、
なので感覚的には俺とエイミーの子供って感じがして、これからは親と子としてと思ったのだが、意外と頑固に愛莉は呼び方を変えなかった。
「良いじゃないですか、愛莉ちゃんは最初に生まれたときの事を大切に思ってるんですよ」
「まあ、お前もそれで良いならいいけどさ」
マスター呼びはやはり恥ずかしいが、二人がそれで良いならそれで良いか、
「よし、じゃあ行くか!」
「はいっ、久々ですけど頑張ります!」
「私は後ろで応援してますから、二人ともおもいっきり頑張ってきてくださいね」
「おう!」「了解です!」
愛莉が光となり、涼の中へと溶け込んでいく。
赤い髪を輝かせ、涼が門の外へと歩いて行った。
大歓声があがる会場の向こうにレオが待っている。
「よ、じゃあ行くぜ」
「ああ、全力でやろう」
ラウロさんが実況で何かを叫んでいるが、もう周りの声は聞こえてこない。
今、目の前に本当の本気のレオが居る。
俺の全力と戦う為にここに居る。
涼が炎剣を作り出し、レオが星の剣を抜き構えた。
「「勝負だ!!」」
二人の勇者が己の全力を込めてぶつかりあう。
自分と相手と果たしてどちらが強いのか?そんな事を知る為に、二人の男の力が天地を揺らした。
「えーと、他に持っていくものは」
レオとの戦いから半年が経ち、新しい旅に出る為に荷造りをしていた。
あの戦いの決着は……ま、言わぬが花ってものだろう。
「あなたー、ロンザリアさんが来ましたよー」
下からエイミーの声が聞こえてきた。
「はーい、直ぐ行くよー」
これから俺達は未探検の場所へと、国からの依頼を受けて旅に向かう。
今までの功績のお陰で、ぶっちゃけ家でゴロゴロしているだけでも十分な収入があるのだが、やっぱりそんな生活は性に合わない。
エイミーも愛莉もそれに付いて来てくれると言ってくれ、序でにロンザリアもやっぱり付いてきた。
レオとリーナは新しい子供が生まれたので今回もお留守番。
しかし、あの幸せそうな顔を見ると俺も子供が欲しくなるな。
ま、今はこの旅を続けられる生き方を楽しもう。
まだまだ時間はあるし、やる事だって沢山ある。
何せこの世界では世界地図すら出来上がっていないのだから。
「よし、こんな物だな」
荷物を纏め、エイミー達が待つ下の階へと下りていく。
今度はどんな旅になるのだろうか?
未知への期待を胸に、出会えたこの世界を歩き出した。
物語を描いた夢ではなく、自分の人生を自分の足で歩き続ける。
異世界に来て勇者になった俺は、仲間達と一緒に旅を続けます。
異世界に着いた俺は勇者ではなかったけれど、仲間達と旅をします キバヤシ ケイジ @kibayasi0325
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます