11 終劇
「艦長、一つお尋ねしますが」
と、エリーゼが改まった口調で言った。
「彼らの中に、人間らしくないと感じた人はいましたか?」
「……どういう意味だ?」
「彼らの振る舞いは皆、人間らしかったですか? 高潔過ぎるとか、卑屈過ぎると感じた人は? その他、何か不自然な点は? 終始、彼らを人間だと信じて、コミュニケーションをされていましたか?」
「ちょっと待ってくれ。何を言っている?」
「……お許しください、艦長。これは大掛かりなチューリング・テストだったのです」
あまりのことに、倉敷は言葉を失った。
チューリング・テスト――人口知能が「知的かどうか」を判定する方法。質問者Aが、回答者B・Cとやりとりをする。BとCのどちらかが人間でどちらが人工知能か、Aに見分けられなければ、その人工知能は知的であると認められる。
「彼らは皆、ヒューマノイドだと?」
「はい。今回のフライト中にやりたかった実験というのはこのことだったのです。もとい、このフライト自体が実験の為のものだったのですが」
「いや、そんなはずはない。僕は彼らと直に会ってる」
エリーゼがそうであるように、ヒューマノイドの外見上の人間らしさは目を見張るものがあるが、近くで見れば見分けはつく。
「出発前のオリエンテーションで艦長がお会いになったのは実在の人物です。しかし出発後はほとんど画面を通じてしかご覧になっていないはずです」
確かに映像だけなら、騙せるかも知れない。だが。
「じゃあ……この事故も嘘なんだね?」
「いえ、あらかじめプログラミングされていたという意味では『嘘』ですが、本機が帰還不能の状況にあるということは『本当』です」
「チューリング・テストの為に、宇宙船を一機まるごと捨てようっていうのか?」
「リアリティがこの実験の最重要事項でしたから」
「……僕に隠していた理由は? チューリング・テストは、相手が人工知能かも知れないっていう認識を前提とするものだろ?」
「実験だとわかっていたら、艦長は『本気』で彼らと向き合えなかったでしょう?」
「僕を『本気』にさせて何の意味がある? それに、桜井さんの提案を受け入れて、直に集まったらすぐバレたはずだ」
「実際に集まる展開になりそうな場合は、そうならないよう私が進言する予定でした。それでも避けられなければやむを得ません。実験終了です」
「僕を本気にさせた意味は?」
「艦長、ひとまず今は地球へ戻りましょう。ご質問にはそれからゆっくりお答えします」
「……わかった」
倉敷は両手を上げ、表情を緩めた。
「やられたよ、エリーゼ。すっかり騙された。五体ともよくできてる」
「ご無礼は心よりお詫び申し上げます」
「じゃあ、彼らのメモリを回収しに行こう」
「その必要はありません。今回の実験に関するデータは全て私のメモリに集約されておりますので」
「そうか。なら、あとはもう帰るだけだね」
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