8 梅田望美からのメッセージ/残り9時間55分

 大隅との通信が切れ、倉敷は梅田からのメッセージを開いた。大隅との通信中に受信していたものである。白鳥との通信の後、着信・受信の際に音が鳴らないよう設定を変更してあった。

「梅田望美です。皆さん全員にお話ししたいことがあるので、全室同時通信をご許可いただけないでしょうか?」

 さて、これは……どうする?

 拒否する理由はない。だが、何を話そうというのか? 誰が何を話したところで状況は何一つ変わらない。今話したいこととは? 遺書に残すのでなく、今、この場にいる人間たちに伝えたいこととは何だろうか?

 桜井のようにドアの解放を要求しているのではない。「話したいことがある」とも言っているし、他人と繋がりたいというのではなく、何か彼女なりの確固たるメッセージがあるのだろう。

「何を言うつもりか、先に確かめるべき、か?」

 と、倉敷は声に出した、自問であると察したらしく、エリーゼは黙っている。

「いや……そんなことをする権利はない」

 これも梅田の考える「最期かも知れない時間の過ごし方」の一つだ。最大限尊重されるべきだろう。

 桜井の望んだドアの解放にはまだ踏み切れないでいるが、これを機に、未だ沈黙を守り続けている菊池の様子を観察し、問題なさそうなら解放してもいい。

 倉敷は梅田にメッセージを返信した。

「全室同時通話の機能制限を解除しました。通話のアイコンを押した後、私との通話か全室同時か、選べるようになっています。どうぞご利用ください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る