6 大隅庸光からのメッセージ/残り10時間15分
「私のことは抽選から外してください」
大隅からのメッセージは、その一言だけだった。
「……どう思う、エリーゼ?」
「もともと自殺願望がおありだったのでは」
「そういうことだろうね。で、君ならどう返信する?」
「かしこまりました、と」
「へぇ、意外だな。それは自殺幇助に当たらない?」
「勿論、通常であれば容認できません。しかし、現在は六名から二名を選ばなければならない状況です。本人が望まない命より、望んでいる命を優先することは妥当です」
「状況と関係ある? そもそも自殺っていうのは本人が生きることを望まないことだよ」
「通常は全員の生存権が無制限に認められています。その中において自殺は『回避すべき事故』であり、何の利益も生み出しません。それに比べ、現状においては、自殺が他者の利益となります」
エリーゼの考えは概ね倉敷と一致している。生きていたくない者よりは、生きたい者を生かすべきだろう。だが――
「僕が抽選から外れることには反対なんだろ?」
「艦長の場合は、責任感からおっしゃっていることだからです」
「口ではそんな風に言った。でも実は世を儚んでいるのかも知れない」
「そのようにはお見受けできません」
「彼だって、違うかも知れないよ。最年長だ。責任感って可能性もある」
「だとしたら、もっと他の書き方がありそうなものですが」
「確かにね。でも、あくまで僕らがそう解釈してるだけだ」
倉敷はディスプレイに並んだ無機質な――恐らくは投げやりな――文字を見つめた。
「エリーゼ、僕はさっきまで、白鳥さんと桜井さん以外から連絡がないことに、大分いらついてた。正直、あの二人に決めてしまおうかとさえ思った。でもこうして連絡を貰ってみると――やっぱりこの人も、生きてたんだなって思う。言葉通りに抽選から外すことなんてできない」
「では、どうされるのです?」
「通信で訊いてみるよ。どうしてこんなことを書いたのか」
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