2 倉敷永司からの放送/残り11時間51分
「――以上の理由から、脱出ポッドに乗る二名を選ばなければならない状況となっております。決して言葉で足りるものではありませんが、ゴンドワナ社を代表して、また、宇宙に憧れた一人の人間として、全員のお命をお守りできないことを、深くお詫び申し上げます」
倉敷はそこで言葉を中断し、カメラに向かって深々と頭を下げた。許されたいのではない。聞いている相手の心中を思うと、頭を下げずにはいられなかった。
個室に備え付けられたモニターを用いての放送であった。
「このような状況において、マニュアルは存在しません。今から申し上げるプランはあくまで私の提案です。ご意見があればお聞かせください。今後の方針は皆様との話し合いで決めたいと考えております。
まず、先ほどご説明しました通り、皆様のお部屋のドアは現在ロックさせていただいております。これはお客様同士のトラブルを避ける為です。ご無礼は承知の上です。
ただいまより七時間後、残りおよそ五時間の時点で、他に取るべき手段がなければ、抽選によって二名様を決定致します。脱出ポッドの出発は残り一時間の時点とし、それまでの四時間を使って、他の三名様には脱出ポッドに乗せるメッセージ等をご用意いただきます」
他の三名、という言葉をもって、倉敷は自分を抽選から外すことを宣言した。エリーゼから何か言いたげな気配を感じたが、構わずに続けた。
「抽選の後、救急用の麻酔と電気ショックによる安楽死装置をご用意致します。いつお使いになるかは各自の判断にお任せ致します。尚、私自身は酸素供給停止の瞬間に使用するつもりです。
個室のドアは脱出ポッド及び安楽死装置に向かわれる際にのみ解放するものと致します。お食事はお部屋内の支給ボックスにお送り致します」
トイレやシャワーも個室に付いている。生活に支障はないはずだ。だが、何の為の「生活」だろう? もう長くは生きられないのに? きっと今、全員が同じ疑問を抱いているはずだ。
「モニター下のタッチパネル、受話器のアイコンに触れていただきますと、私との通話が可能となります。カメラはモニター上部の小さな黒い穴のような部分ですが、通話状態にならない限り、私が皆様のご様子を見ることはありません。
通話はひとまず、皆様お一人ずつと私の一対一のみと致します。機能としては全室同時通話も可能です。
また、テキストメッセージもお受け致します。手紙のアイコンでメーラーが起動致します。こちらもひとまずは私宛のみに限らせていただきます。
私からの提案は以上です。ご意見やご要望がありましたら、どんな些細なことでも遠慮なくおっしゃってください」
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