10/
「おはよ、奏」
「おはよっ、つむくん」
家を出てすぐ、目に飛び込んできた奏に挨拶をする。それから適当な話を交わして、示し合わせているわけでもなく、学校へと歩き出した。
歩きながら、奏は『スリーミニッツ』について熱く語ってくる。内容は聞いたことのある、今日の放送についてだ。
紡は相槌を打ちながら、周囲へと意識が広がっていくようだった。不思議な気分だ。奏の話はしっかりと聞こえているのに、辺りの出来事一つ一つを手に取って眺めているような気持になる。
少しだけ衣替えを思わせる日差し。首筋を涼しく冷ましてくれるそよ風。周囲からは洗濯物を干す音や、料理をする音が聞こえてくる。車が走り去って、バイクや自転車が続くように通り抜けていく。塀の上を尻尾の短い猫がとことこと歩く。追い抜くと、にゃあと鳴き声が聞こえた。
「――っと、ごめん」
後ろからぶつかってきた小学生に、咄嗟に謝る。小学生の子供は二人組で、話に熱中していたようだった。紡と同じように「ごめんなさい」と言うと、ぱたぱたと走って行った。その様子を見て、奏がくすりと笑っている。
「なんだか、昔のつむくんを見てるみたい」
「そうかな。あんな風だったっけ」
「ん。あの子たちも『スリーミニッツ』の話してたんだよ。つむくんも昔ね、同じように話してると周りが見えなくなっちゃってて、色んなところにぶつかってたもん」
「それ、半分ぐらいは奏のことだろ」
「ありゃ? そだっけ?」
言って、二人して笑う。
「なぁ、奏。僕はさ、あの子たちと同じ頃、ヒーローになりたかったんだ」
「うん。知ってた」
「今からでも、なれるかな」
「うん。なれるよ」
当たり前のように、奏は頷く。そして、くるくると回る様にして、紡の前に出た。紡は足を止める。
「でも、知ってた? つむくんはね、ずっと、私のヒーローなんだよ」
照れ臭そうに「えへへ」と笑いくるりと背を向けると、奏はスキップするように、少しだけ跳ねて歩き出した。その背中を眺めながら、紡も少しだけ笑って、また歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます