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「おはよ、奏」

「おはよっ、つむくん」

 家を出てすぐ、目に飛び込んできた奏に挨拶をする。それから適当な話を交わして、示し合わせているわけでもなく、学校へと歩き出した。

 歩きながら、奏は『スリーミニッツ』について熱く語ってくる。内容は聞いたことのある、今日の放送についてだ。

 紡は相槌を打ちながら、周囲へと意識が広がっていくようだった。不思議な気分だ。奏の話はしっかりと聞こえているのに、辺りの出来事一つ一つを手に取って眺めているような気持になる。

 少しだけ衣替えを思わせる日差し。首筋を涼しく冷ましてくれるそよ風。周囲からは洗濯物を干す音や、料理をする音が聞こえてくる。車が走り去って、バイクや自転車が続くように通り抜けていく。塀の上を尻尾の短い猫がとことこと歩く。追い抜くと、にゃあと鳴き声が聞こえた。

「――っと、ごめん」

 後ろからぶつかってきた小学生に、咄嗟に謝る。小学生の子供は二人組で、話に熱中していたようだった。紡と同じように「ごめんなさい」と言うと、ぱたぱたと走って行った。その様子を見て、奏がくすりと笑っている。

「なんだか、昔のつむくんを見てるみたい」

「そうかな。あんな風だったっけ」

「ん。あの子たちも『スリーミニッツ』の話してたんだよ。つむくんも昔ね、同じように話してると周りが見えなくなっちゃってて、色んなところにぶつかってたもん」

「それ、半分ぐらいは奏のことだろ」

「ありゃ? そだっけ?」

 言って、二人して笑う。

「なぁ、奏。僕はさ、あの子たちと同じ頃、ヒーローになりたかったんだ」

「うん。知ってた」

「今からでも、なれるかな」

「うん。なれるよ」

 当たり前のように、奏は頷く。そして、くるくると回る様にして、紡の前に出た。紡は足を止める。

「でも、知ってた? つむくんはね、ずっと、私のヒーローなんだよ」

 照れ臭そうに「えへへ」と笑いくるりと背を向けると、奏はスキップするように、少しだけ跳ねて歩き出した。その背中を眺めながら、紡も少しだけ笑って、また歩き出した。

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