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機械の歯車が回るようだ、と思った。よく社会の歯車だと形容されることは多いが、実際的を射ている。そして、考えてみれば、別段悪い意味ではないのかもしれない。少なくとも、紡が抱いた気持ちは良い感覚であった。
電車が到着し、早々と乗客が下りる。彼等は一目散に改札へ向かうと、そのまま四方へと散っていく。その先に在るのは、彼らの学校であり会社だ。そうして一日が始まる。とても正確に、そして精密に彼らは生活を行い、社会を回している。
紡は駅前にある広場を、駅ビルの中から見ていた。窓越しに見えるそれらの景色は、一見すれば画一的に見えてしまうが、彼らはそれぞれの意志でもって動いている。マクロとミクロにおける視点の違いに過ぎない。そのように彼らが過ごしているからこそ社会が回っているのだ。それを、その渦の外に出て、初めて紡は少しだけ理解できた。
「……」
紡は一点をずっと見つめている。広場の片隅にあるベンチだ。そこには誰も座っていない。
「来ないのかな」
ぽつり、と呟いて仕方ないと考える。彼女は本来ならこんな場所にいるべき人間ではないのだ。
紡が待っていたのは
しかし、彼女はしばらく待ってみたが姿を現すことは無かった。似たようにギターケースを担いだ女性は何人か見かけたが、そのどれもが別人だった。きっと、あの時彼女が現れたのは自分がいたからなのだろう。寝間着に裸足。そんな姿を見つけて、自らの姿を隠して話をしてくれた。
「――うん、行こう」
一人呟いて、紡はその場を後にする。これ以上長居をすれば、ここで灯人に見つけられてしまう。それはどうしても避けたかった。
人の波に乗るようにして、紡は広場へと向かう。手に持った封の開いてないコーラの缶を、さっきまで見つめていたベンチへと置く。そして、そのまま再び人の流れに乗ると、目的地へと向かった。
旅の終着地点と定めた、有栖川鎮の屋敷へと。
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