始まりの物語②

 「シイナと知り合いなの?」


 扉の前で膝を抱えるカルの隣にしゃがみ、声を掛けたのは、金色の髪に綺麗な碧眼をもった少女、リズだった。優しく、高い声はこの空間によく響く。


 「・・・」


 カルの血の色にも似た大きな目がリズを睨んだ。七歳の少女とは思えない迫力にりズはたじろぐ。


 「カル、俺らは仲間だ。ここはくせの強いやつが多いけど、仲良くやって行こう」


 早々に終わったリリとの会話から立ち直り、リズをフォローするように、並んで声を掛けるが、カルはリズから目をそらなかった。リズがカルの考えていることが分からず、首をかしげると、カルが再びか細い声でつぶやいた。


 「仲間じゃない。お前は人を殺せない」


 「っ!?」


 リズは一瞬息が止まった。それは、リズが抱えるコンプレックスそのものだったからだ。ここの子供たちは皆、モルモット兵として、特殊な訓練や実験を受け、戦っていた。その誰もが命令に従い、人を殺めていたが、リズは人を殺めるどころか、まともに戦えていない、いわば欠陥品だった。


 自分の無能さと未熟さを初対面の、それも年下の女の子に言い当てられたことに動揺し、何も言えなかった。


 「どうして、そう思ったんだ」


 リズをかばうようにエルが訪ねると、カルは見据えるようにエルを見つめ、先ほどのか細い声とは違い、はっきりと言った。


 「目が、違う。とも、わたしとも。そして、ここにいる人殺したちとも」


 その答えにエルも何と返したらいいかわからず、しばらく無言の空気が流れた。


 その空気を壊すように、三人の前にあるドアが開いた。一斉に視線を向けると、朝食を乗せたカートを押すシイナの姿があった。待ちわびたシイナの登場に、カルは思わず抱きついた。


 「やあ、カル。久しぶりです。少し見ない間に髪を短くされたんですね」

 

 優しそうに話すのは、ここの子供たちの生活を支える初老の男性で、役員には珍しく子供たちを人として扱い、接している。そのほほえましい雰囲気は祖父と孫にも見えた。


 「遅い」


 カルはそう呟いて、いつの間によじ登ったのかシイナの背中にいる。


 「すみません。ノーマンの話が終わって入ろうと思って、待っていました。いつ終わるかわからなかったので」


 申し訳なさそうに言うシイナの言葉を聞いているのか、いないのか、カルはそっと丸まった。その姿を見る限り、先ほどの目が嘘のような、『女の子の姿』だった。


 「シイナ、その子と知り合いなの?」

 

 リズが立ち上がりながら訪ねる。その顔はどこかうかない様子だ。シイナは背中で丸まっているカルをあやすように動きながら優しく答える。


 「はい。カルが生まれた時から知っていますよ。ノーマンからカルについてどこまで聞きましたか?」


 「歳以外は何も」


 そうですか、と呟くと、あたりを見渡し、何かを確認した。


「それなら、ゆっくりご飯を食べながら話しましょう。さあ、配膳を手伝ってください」


 そう言うと、エルとリズは頷いた。スープとパンと言った質素な朝ごはんだ。蓋を開け、お皿に注ぎ始めると、遠目から様子を伺っていた子供たちが、群れを作り出す。


 トレーに乗せられた朝食を受け取っていくと、各々好きな場所で食事を始めた。


 シイナは二人分の朝食を乗せたトレーを持って、リリが突っ伏している隣に座った。かたん、と言う音にリリは顔を上げる。


「リリ、おはよう。ご飯を食べよう。エルたちも、ここに来て、一緒に食べましょう」


 そういって、皆の配膳を終わらせた二人は、自分の朝食をもって、シイナの正面に座った。

  

 突然大人数になったことへ、不満を露わにしたリリだったが、シイナがそれをなだめると、手早く、パンを口に放りこんだ。

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WORLD PLANET〜惨憺たる人生を君と2人で生きていく〜 錺あい @Ai-Kazari

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