第14話 川べりで果たされたルール無用の邂逅

 「悠鷹君?」

 突然叫んで跳ね起きた絵梨佳に驚いて、奈美とみゆきは目を覚ました。

 「ど~したの?」

 「彼、向こうじゃなかった?」

 二人の問いに、絵梨佳はテレ笑いをしながら頭を掻く。

 「え……と、寝ぼけた……」

 こら、と額を突っつく2人に同じ反撃を加える絵梨佳は、川面の煌きの中から現れる、小柄な少年に気づいた。

 「悠鷹君?」

 「やるじゃ~ん!」

 異口同音に羨望の声をあげて、奈美とみゆきは絵梨佳をもみくちゃにする。当の悠鷹は、きょとんとして周囲を見回していた。

 「掛井いいいいいい!」

 堰堤から大きくジャンプした氷室の姿が、一瞬、水煙の下に消える。数秒後、悠鷹の姿も、水面下に消えていた。

 「悠鷹君?」

 「氷室くんだあ!」

 「ここがどこだか分かってんのか!戻れ!」

 心配と喜び、二通りある絵梨佳と奈美の叫びを後に、みゆきは水飛沫とともに立ち上がった男子二人めがけ、絶叫して走り出す。

 「何しくさる!」

 「俺が先にやろうと思うてたことを!」

 川の中でローリングソバットと太極拳の回し蹴りの応酬をはじめた氷室と悠鷹に、駆け込んだみゆきのダブルラリアットが炸裂する。

 「お前ら何やっとるかああ!」

 三人まとめて倒れこんだ水の中まで、体育教師の怒号が響いた。


 川上の川原で、陽介は目を覚ました。川下から、先生の説教が風に乗って聞こえてくる。男子連中は、てんでに大き目のTシャツを羽織って、泳ぎ場を離れつつあった。

 氷室と悠鷹は、彼の力でも、もはや救出不能である。陽介も、とりあえず帰ることにした。

 太陽はそろそろ中天に登りつめようとしている。もう昼近かった。

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水と剣の物語~Complex~ 兵藤晴佳 @hyoudo

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