鶴来空は、姉の死体を発見する
鶴来空 -0日
昨日姉さんは帰ってこなかった。
帰宅する時は、あまり気にしなかった。誰かの家に無断外泊しているのだろうと、勝手に高をくくった。あまりある事では無いが、決して無い訳ではない。だから普通に寝て、明日になれば帰ってきてるだろうと思っていた。
朝起きて姉さんが帰ってきていない事に気づいた僕は、姉さんの携帯に連絡をした。何回しても何回しても、返事は一向に返ってこなかった。
嫌な予感がする。
僕は急いで学校に向かった。学校は朝練をしている部活がちらほらいるくらいで、学校がまだ寝ぼけ眼のように思えた。
部活棟まで、真っすぐ向かう。
姉さんが帰ってこないとしても、普通部室にはいない。普段の僕ならそう判断するだろう。それでも僕は、この部室に何かあるのではないかと思ったのだ。
そういえば、樹村先輩の遺体が見つかったのも、こんな朝早い時間の事だったっけ――。
「……そんなわけがない」
『超研部』の部室に到着する。僕は祈るようにして、扉を開ける。
扉を開けると、僕の姉さんが死んでいた。
『超研部』の部室の、その窓際。姉さんは、腰壁に体を預けて地面に座っていた。頭を垂れて、その表情はよく見えない。ただ、生気の無さだけは伝わってきた。
腹部からは赤黒い液体がべっとりと流れていて、その赤い川は床にまで溢れている。湿り気を無くした、乾いた血の匂いが、部室に充満している。
部室に充満する匂いと色。その全てが、姉さんの死を物語っていた。
「――ね、姉さん?」
そんな風に呼びかけたって、返事が無い事は分かっているのに。それでも僕は呼びかけてしまう。
朝の静寂に包まれた部室に、僕の乾いた声が響く。部室の中は、姉さんの死以外は何事もないかのように見えて。姉さんの死だけが、赤い色だけが、あまりにも浮いていた。
「姉さん」
僕はもう一度呼びかけて、姉さんの死体の傍に近づく。乾いた血の海を踏みしめるたびに、血が割れる音がする。本当は、こうやって現場を荒らす事は間違っているのかもしれない。でもこの時の僕には、それを感じる余裕なんて無かった。
姉さんの傍に座って、顔を覗き込む。目が閉じられたその表情は、いつも僕が見ている寝顔と変わりなくて。本当に寝ているんじゃいかってくらい、安らかな笑顔だった。
でも死んでいるんだ。
姉さんは確かに死んでいる。
「――どうして」
どうして、こうなったんだろう。
どうして、姉さんが死んでいる?
当然ながら、その問いかけに答えてくれる人はいない。
**************************************
その日、僕の姉である鶴来玲の死体を発見して。
そして。
そして僕は――。
――――するべき事をした。
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