氷上雹珂 +8日





「ふう」


 喫茶店で、私はコーヒーを飲む。

 西園寺の逮捕からしばらく経って。私には休暇が与えられた。事件がひとまずの解決を見せた事。そしてスタンガンによるショックから体を回復させるための休みだった。

 とは言っても自宅にこもっているのも退屈だったので、こうして私は喫茶店でのんびりお茶でも取る事にした。

 西園寺さん、あるいは皆月さんと会話をした、『ヤマネコカフェ』だ。


「コーヒーのお替りです」


 ウェイトレスさんがコーヒーのお替りを淹れる。

 新しく注がれたコーヒーを飲みながら、私は『超研部』の彼女たちの事を考えていた。

 この一週間で起こった、凄惨な事件。死者を三人も出したこの事件は、テレビや新聞で大きく報じられた。西園寺家がいくら資産を持っていようと、一人娘の殺人は流石に隠蔽できなかったようだ。

 無理もない。女子高生が三人も殺害されたなんてセンセーショナルな事件は、警察だって公開しない訳にもいかない。しかもそれは、同じ部活内の同時討ちというんだから、公表もやむを得ない。


「……西園寺さんか」


 兎川さんは、ナイフで全身を貫かれ死亡した。そして彼女を殺した西園寺さんは、逮捕されてからずっと黙秘を貫いているらしい。

 ただ私は、知っている。彼女がどうして人を殺したのかを。あんなにも凄惨な事件を起こした理由を、知っているのだ。

 西園寺さんは未成年だから、本来は少年院とかに送られるはずだ。ただ殺人なら話は別で、きっと彼女は刑事裁判にかけられるだろう。二人殺した彼女の罪状がいかほどになるか、それは現時点では判断できない。

 あの時の彼女は、正気をなくしていたようにも思える。案外、精神鑑定に掛けられるのかもしれない。

 過馬さんは、飄々としているようで、かなりショックを受けているようだった。事実兎川さんが死亡した直後は業務も手に付かず、後処理を私に任せる程だったのだから。


「……ふう」


 コーヒーを再び飲む。

 今回の事件、私は結局、カヤの外だった。彼女たちの物語に関与せず、外側から事件を眺めていた。

 でも、それはしょうがない事だ。結局この事件は、『超研部』の彼女たちの物語だったのだ。彼女たちに何があったのか。なんで皆月さんは鶴来玲さんを殺し、兎川さんはそれを庇ったのか、それは私には一生分からない。

 分からないんだ、子供の事情は、大人には。

 『自分で用意したベッドには、自分が横になるべき』。過馬さんがそう言っていたのを思い出す。たしかその意味は、自分の起こした責任は自分で取れとか、そういう意味合いだったか。子供に言うには厳しい意見だが、しかしそれは真理を突いているのかもしれない。

 結局彼女達は、自分で自分の行動の責任を取ったのだ。


「さてと」


 コーヒーを飲み干して、私は席を立つ。

 本当は自宅療養期間だけど、署に顔を出してみようと思う。

 落ち込んで塞ぎ込んでいる過馬さんを慰める必要もあるのだから。


「――まぶしい」


 店の外に出ると、太陽が暑かった。

 まるで透明みたいな、空だった。

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