商人ギルドの人

「ツバサ朝ごはんはもう食べた?」

「まだですけど時間が遅いんで昼しっかり食べようかと。レモネードとコイツのごはんだけにしときます。アイシアさん、何か一品魚料理頼んでもらえますか」

「畏まりました。それでは注文通して来ますね。レサ様はおかわり頼まれますか?」


座ったオレに水のグラスを持ってきてくれたアイシアさんの言葉にレサさんも頷いて厨房の方に注文を通しに行ってくれた。休憩中かと思ったけど実はお客が少なくてやる事も少ないからレサさんに付き合ってただけらしい。ハイドさんもそうだけどほんとここってこういうとこ緩い。

普通に飲食店だからここも大体ピークはごはん時みたいでそれ以外の時間はお客もまばらで料理を出し終わってしまえば様子を見て水を足したりデザートを勧めたりってくらいらしい。


「もうこの街にも慣れて来た?足りない物とかない?」

「大丈夫です。初日に良い雑貨屋を見つけてたんで大体そこで買えました」

「下位の冒険者に絡まれたりとかもなかった?まぁここで絡んだらハイドかアイシアに放り出されるだろうけどね」

「ないですないです。絡まれたら即逃げるし」


レイズさんの言葉じゃないけどこの体は小さいから小回りが利くし足も早い上身軽だ。同じ獣人じゃ無理かもしれないけど普通人間だったら逃げれば巻けるだろうとは思ってる。そう言ったら面白そうにレサさんと飲み物を持って来たアイシアさんに笑われた。


「何で笑うんですか。喧嘩とかした事ないし1番安全じゃないですか…」

「申し訳ありません、ツバサ様。だってとても真面目におっしゃるのですもの」

「無駄な喧嘩はしたくないんですよ。それがレサさんやヘレナさんが絡まれてる、とかだったらどうにか連れて逃げるとか撃退も考えますけど自分1人だったら相手にせずに逃げた方が楽でしょう?」


助ける為なら仕方ないと諦めもつくけど避けれるものならオレは全力で避ける質だ。喧嘩なんか面倒だし、こんな子供に絡むのが居たらそれはもうロクなもんじゃない。相手にするだけ無駄だし周りに迷惑が掛かる。一緒になって喧嘩する方が馬鹿を見ると思う。


「基本それで良いんじゃない?面倒な事になりそうなら教会かうち来るか、ここに戻ってくればハイドがどうにかするだろうしね」

「あ、はい。ん?うち?レサさんの家ですか?なんで?」

「うち商人ギルドだから護衛とかもこっそり居るし安全なの。無理に押し入って来るなら護衛に捕縛されて自警団や冒険者ギルドに突き出されるだけだしね」


聞けばレサさん、実は商人ギルドのマスターの娘さんで普段から受付やったり、孤児を引き取って面倒みたりしているらしい。その為商人ギルドには雇いの冒険者のような人が護衛で常駐してたり、個人的にも護衛が着いているんだとか。この店はそういった意味では安全だから店から少し離れた所で待機していると言っていた。


「この街ならそんなに危険は無いし要らないって言ってるんだけど駄目なんだってさ」

「お父様が警戒なさるのも仕方がありませんわ。商人ギルドマスターのお嬢様ですもの。希望通りの買い取りをして貰えず恨んでいるお馬鹿さんなんて掃いて捨てる程いらっしゃるでしょうしそんな方に交渉材料として攫われでもしたら大変ですから」

「オレもそう思います」


ちゃんとした人ばかりならそれでいいだろうけど、どこに行ったって良い人ばかりじゃないって残念だけど知っている。

向こうでだって立場の弱い人間や優しい人に付け込んで騙そうとする人はいくらでも居たし、ここでだって人を見た目で見下して難癖付ける人や思い通りにならず暴れてハイドさんやアイシアさんに追い出されるような人だって居る。

自分の思い通りの買い取りがされず恨んでレサさんを人質に思い通りにしようとする人だって居ないと限らないし警戒して損はないと思う。


「えぇーツバサまでー?うーん、じゃあ良いや。でさ、ツバサ今日暇?一緒に出掛けない?」

「へ?あ、はい。予定は何もまだ決まってないですし大丈夫です」


急な話題変更に戸惑いながらもそう頷くと満足そうに笑われた。

時間的にお昼前だったから頃合いを見て昼食を貰いレサさんと店を出る。


「レサちゃん、ツバサちゃんいってらっしゃーい。ツバサちゃん昨日みたいに遅くならないでねぇ?」

「行ってきます、ヘレナさん。今日はちゃんと遅くなる前に帰りますから」


昨日の一件のせいで心配したヘレナさんにそう言われ苦笑いで店を出る事になってしまった。店の奥の方でアイシアさんも手を振って見送ってもらった。



それから特に希望も無かったしレサさんの買い物に付き合って色々な店に行った。食べ物屋さんでは今後の為についででいくつか果物を買ったし、魚屋ではマグロみたいなサイズの魚に少し驚いたり、レサさん行きつけの雑貨屋がケイトおばさんの店と分かり、やっぱりケイトおばさんにおやつをタダで持たされたりした。


「ツバサもおばさんの店だったんだね」

「初日孤児院に向かう時に迷子じゃないか、って話し掛けてくれて、翌日色々買い出しに行った時にも子供さんのお古処分しようと思ってたからって服くれたりとか、凄く色々貰っちゃって。ありがたいんですけど申し訳ないな、とも」

「大丈夫大丈夫、おばさん人の世話焼くの生きがいみたいなもんなんだって。元気で笑ってくれたらそれで良いっていっつも言うんだよ。だから時々チビ達と遊びにあたしも行くんだ」


レサさんも何度かはお金払おうとしたりお礼しようと思ったけど、オレと同じで受け取ってもらえず余分に買ってもむしろおまけまで付けられて諦めたらしい。ケイトおばさんの店、ちゃんと利益出てるのかな…。


---------------------------------------------------------------------------------------

『まさかこんな近くに商人ギルドの人が居るとか思ってなかった…』


早い段階でレサさん養子が居る説は決まってたんですが、やっと出せて楽しいです。それだけ養うには、と考えて商人ギルドにしましたw

-------------------------------------------------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る