あたたかい場所

夢を見た。まだ孤児院に居た小さな頃の夢。


『翼君はしてほしい事や困っている事はない?』


他の子みたいにわがままも頼みごともしないオレによく大人達は義務のようにそう声を掛けてきた。


『翼君はほんと手が掛からないなー。家族なんだからもっとわがまま言っていいんだぞー?』


請われて1番年下の子を抱っこした人もよくそう言っていた。だって、1番してほしい事はしてくれないじゃないか。施設の子供の面倒を見る、その為にそう聞くだけで家族だと思ってとは言っても本当の家族のようにはしてくれない。

ただ仕事でしているだけで、それ以上にはなってくれないと早い段階で分かってしまった。


「雨いやだ。一緒にねていい?」

『え?それは…まだ仕事が…』

「やっぱりいい。おやすみなさい」


本当は別に朝までじゃなくても、ほんの少し、眠るくらいまでの間一緒に居てくれるだけで十分だった。

けれど仕事、と言われてやっぱり仕事ってだけなんだと悟った。

多分それからだ。孤児院の大人にわがままも甘える事もしなくなったのは。小さな孤児院だった。大人も最低限で子供は小さい子も大きな子も何人も居たからやる事は多かっただろう。そんなでも世話をしてくれた事に感謝もしてるけど、家族のように…なんてのは諦めた。

テレビで観るようなほんの一瞬のぬくもりもくれないんだから、と。多分子供心にきっとオレは寂しかったんだと思う。



「……ん…白雪、おもい…」


子供の頃の夢から目覚めれば何かお腹の辺りに重い物が乗っていて身動ぐとそれは落ちていった。

重い物が退いてくれて、でも温かい物に包まれていてとても気持ちいいから温かいのにくっついて一つ欠伸を溢す。寝起きの布団の中ってなんでこうもあたたかくて気持ちいいんだろう。

向こうでは当然だけど朝から仕事だったからあまり思わなかったけどこっちに来てすっかり朝寝坊の癖がついてしまった。でもあったかいのには逆らえない…。もうちょっと寝てても良いかな。


「ふぁ…しらゆき、今なんじ…?」

「まだ寝てていいわよ、ツバサ」


予想した声とは違うけど優しい声がして慣れてしまった匂いと温もりに包まれる。ここはあったかい…と素直に目を閉じた。



「ツバサ…おきるニャ!おなかへったにゃー」

「んんー…ん、何時?」

「もう10じニャ。ハイドもしごとにおりてったニャ」

「お前よくそんなの気付いたな…あふ。わか…あれ?」


白雪に起こされてぼんやりと目を擦っていればテーブルの側に昨日も見た剣がある。それにここは煙草の匂いもしない。代わりにするのはハイドさんの匂い…。オレがまだ包まってる布団も。

そういえば一度ちょっとだけ起きた時誰かに話し掛けられなかったっけ?


「ニャッ!?」

「あ、ごめん」


思い出して飛び起きたら布団の上に乗ってた白雪が吹っ飛んで驚いた声を上げた。作りはオレが泊まってる部屋とそんなに変わらないけど昨日の朝しまい忘れた筈の灰皿も飲み残して放置して来たコーヒーも無い。代わりに予備だろうエプロンが置いてあったりとか、剣があったりする。


「なにキョロキョロしてるニャ?ハイドのへやにゃ」

「やっぱりそうだよなぁ。向こうじゃこんな寝落ちする事なかったのに…」


どうやらオレはご飯の後、寝落ちてまたハイドさんの部屋に運ばれたらしい。これも子供になったからか?だとしたら今後早めに部屋に戻るようにしないと。多分気にするなとか、また役得とか言われる気はするけど迷惑掛けてる事には違いないし。

とりあえずベットだけ簡単に整えてからハイドさんが机の上に置いてってた鍵で部屋の鍵をしめて自分の部屋に戻った。今日は特に予定もないけど、昨日話しの途中でしかも称号まで付与してた王に会いに行くか、一応納得出来た気はするしもう一度神官さんのとこに行くか…。


「まずはごはんニャ!ツバサはやく!」

「そうするか」


着替え終わって煙草を吸いながら考えていると待ちきれなかったらしい白雪に腹に猫パンチされた。

仕方無く白雪を連れて下の食堂に降りるとレサさんがここの店員さんとお茶していた。


「あ!ツバサおはよう。元気そうだね!」

「レサさんおはようございます。元気ですよ」

「ツバサ様おはようございます。ハイドさんに悪戯されたりしませんでしたか?」

「アイシアさんもおはようございます。悪戯とかないですよ。よく抱きつかれはしますけど」


アイシアさんはメイド風の制服を着てはいるけどれっきとしたおおかみのお家の店員さんだ。栗色のショートカットでテレビで見るメイドさんがよく付けていたカチューシャで良いのかな、あぁいうので髪をまとめてる。そして銀縁眼鏡。偏見かもしれないけど出来るメイドさんって感じ。実際に気配りや片付けも凄く早くて超優秀。しかも戦えるらしくて夜の時間酔っ払いが暴れたのを掃除に使ってたモップで伸してたのを一昨日の夜見てしまってその時から見掛けると声を掛けてくれるようになった。


「そういえばハイドさんは?もう店に出てるかと思ったんですけど」

「ハイドさんでしたら買い出しに行かれましたよ。何か伝える事があればお伝え致しましょうか?」

「あー、伝言とかじゃなくて、鍵返さないと…と思って」

「お預かりしますよ。今日は買い出しの量が多かったのでランチタイム過ぎるかと思われます」


そう言って手を差し出されたので甘えてしまって鍵を渡す。


「すいません、お願いします。今度お礼に何か」

「お礼は前払いで頂いております。クロワッサンサンド、ごちそうさまでした」


昨日お土産としてヘレナさんに預けたクロワッサンサンドは無事アイシアさんにも渡ったみたいで悪戯っぽく笑って先に言われてしまった。そう言われてしまったら仕方ない。お礼は諦めようと思えた。

レサさんも気に掛けてくれてたらしく話したいと言われて、せっかくアイシアさんとお茶してたのにとは思ったけど誘われるまま隣に座った。


-------------------------------------------------------------

「戦うメイドさんってこの世界では当たり前なんだろうか…」


戦うメイドはここのみです。アイシアがちょっと特殊。その理由はいずれ書きたいです(*´艸`*)

--------------------------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る