初めてのモンスター

「じゃあ、エアリエル達。また来る。エアリエル達もいつでも来て良いから」

「今日はとても楽しかったわ。また来てね、約束よ?ツバサ」

「この先には怖い動物が沢山居ますから気を付けてですの!」

「分かってるよ。ありがとう」


あれからエアリエル達とは色んな話をした。エアリエル達は風の妖精とはいっても本来嵐を司る妖精だったらしく強い風や雷まで使えるらしい。その強い風でオレを移動させる事も簡単だと言うから始まりの森の中間地点まで送ってもらって彼女達とは一旦別れた。

彼女達の中でも一番最初に話し掛けた子は心配して着いて来たがったけど危ない事はしない、危険があれば呼ぶからと話して納得してもらった。


「白雪、あぁは言ったけど森がオレには危なくないって本当か?」

「ほんとうニャ。けものはてきじゃないニャ」

「森って獣だけじゃないと思うけどな」


普通森って獣だけじゃなく虫とか色々居そうな気がするけど、この世界の生き物に興味が有ったから来てみる事にした。ヤバイのが居てもそれこそこの体なら木に登って跳んで移動すれば逃げられる気はしたし。


森の中の方とは言っても入り口の方とあまり変わりはない。

木が増えて少し薄暗いのと変わった派手な色の植物が生えているくらいだ。白雪に聞いて植物に手をかざして凝視しているとまたプレートのような物が浮き上がってくる。それぞれアイテムになるような物や生き物にはオレみたいにステータスみたいな物が有ってオレはそういうのを視る力もあるらしい。今日は採取目的じゃないから採らないけど。


「やっぱこの世界って色々変だな。青い葉っぱとかどうやって光合成するんだよ」

「みずとまりょくでせいちょうするからいいのニャ」


光合成じゃなかった。そうか、植物も魔力の影響を受けるんだな。だから大食いピーチみたいに動き回るようなのが居るのか、とどこか納得した。まぁそうだよな。植物だって命には変わりないから魔力にも影響されるよな。


「大食いピーチ以外にも色々植物っぽいのに動くやつ居るのか?」

「トレントとかもいるししょくじんかもいるニャ」


森危なくないって言ったの誰だよ。それともこの森は初心者用だしそういうのは居ないのか?いや、でも★4の飛びつきウルフとか★2のタックルラビット居るって言ってたし居るんじゃないのか?動く植物系。


「アイツらはほのおがにがてニャ。ほのおでにげるしもやせるニャ」


やっぱり居た…でも炎なら出せるから大丈夫かな。

駄目だったら全力で逃げる。向こうじゃ見なかった変わった植物や木の実は凄く色鮮やかだったり、形から変わってたりもする。

それ以外にもやたらデカイ花が咲いていたり。白雪の言う食人花かと警戒したけどそんな事はなくただのデカイ花で、まさかのハチミツの原料だった。とんでもなくデカイ蜂が来たら困るから花からは即効で逃げた。


「お前の大丈夫の基準ってやっぱオレを過信し過ぎだと思う。オレ普通の元サラリーマンって忘れてるだろ」

「だってツバサはだいじょうぶニャ。つめもあるしまほうもつかえるニャ。それにけものはツバサをおそわないにゃ」

「は?襲わないって何で」


何を言ってるんだ、みたいな顔で心外そうに言われても分かる訳がない。獣だって縄張りに入られたり腹減ってたら襲って来ると思うんだけど、白雪の認識は違うらしい。


「だってけものにあいされしモノもってるニャ。けものはみんなツバサすきニャ」

「あれは仲良くなりやすいってやつだろ?」


神官さんは獣や獣人と仲良くなりやすい筈って言ってたし。そんな断言される物じゃなかったと思う。


「ニャーもネコだからわかるニャ。ツバサのはそんなよわいものじゃないニャ。じゅうじんはランバートがいうとおりだけど、けものけいモンスターやどうぶつはツバサをすきになるニャ」


またとんでもない称号だった。妖精や精霊で留まらず獣にも無条件に愛されるやつっぽい。今まで自分の事に精一杯であまり深く関わる相手は居なかった。バイトばかりで学生時代だって最低限の付き合いだったし、社会人になってからだってそうだ。その中でたつきだけが何だかんだ理由をつけてはオレの傍に居てくれた。

そんなオレがここに来てからは何もなくても愛されるとか本当にムツゴ○ウ王国でも作れって事か?それが使命だったら笑うけど。


「それでも獣以外にも居るんだろう…っと、言ったそばから何か来たっぽいし」

「おっきいニャ」


白雪には一応すぐ動けるように、と告げて音のする方へ視線を向ける。繁みから現れたのは大きな狼のようだ。

咄嗟に身構えるけどちょっとどうにか出来そうな気がしない。飛び付かれ掛けたのをギリギリでジャンプして上の方に有った木に掴まるのが精一杯だった。


「こんの馬鹿雪!どこが好きだよ、飛びつきウルフだろコイツ。今絶対噛みに来たろ!」

「そんなはずないニャ、だってめちゃくちゃしっぽふってるニャ!しょんぼりしてるニャ!」

「尻尾くらい……うん、めちゃくちゃ振ってる。なんか、うん、寂しそうだな…」


木に掴まってそのままの勢いで枝に乗り腰掛け白雪を叱れば全力で下を指さして反論された。半信半疑で見下ろせばテレビでよく観る飼い主を出迎える犬かってくらいに尻尾を振ってオレの居る枝を見上げ届く訳ないのにジャンプする狼が居た。狼の筈だけどどこかまぬけでもあって脱力してしまった。


「えー、これ降りたら相当じゃれつかれるんじゃ…」

「かもにゃ」

「結構覚悟要るんだけど。お前同じ獣だろ?説得出来ないか?」

「にゃーはネコにゃ。おおかみのことばははなせないにゃ」


ダメ元で言ってみたけどやっぱり無理だった。あまり期待してなかったから別に良いんだけど。


それにしても本当に狼か分からなくなってきた。昨日聞いた話だとランクも高く獲物だと認識すれば的確に噛み付き殺すって事だったけどそんな怖さはどこにも無くて、今も木の幹に摑まってなんとか登ろうとしたりジャンプしている。実はただのデカイ犬だったりするんだろうか。


まぁ、狼だとしても人馴れしてると犬と変わらないってテレビで見た事あるからそんなものかもしれない。


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「ウルフって狼だよな。物凄く犬っぽいんだけど名付け親の勘違いとかだったりする?」


狼だって懐いた人の前なら犬っぽく甘えようとする筈。ライオンって人馴れすると猫とそんなに変わらなかったですし。という妄想です。そしてツバサの称号は凄かった、というお話(笑)

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