それって新人いびり? ※ハイド視点

「ハイドさん、運ぶの手伝う。流石に量多いだろうし、ハイドさんも休みなのに」

「あら、ツバサってば優しいんだから。あの2人とは大違いね。ありがとう」


テーブルの上を片付けてデザートの注文を通し待つ間厨房で洗い物をしていたらカウンターから綺麗なオレンジ色がひょこりとのぞいた。そしてそんな可愛い申し出をしてくれて思わず笑みが溢れる。

余程親や一族の言い付けが厳しかったのかこの子は本当に気遣いの出来る優しい子に育っている。むしろ不自然なくらいに。


「別に、そんなじゃない。ハイドさんって何で冒険者辞めたの?やっぱ怪我かなんか?答えにくかったら無理に聞かないけど」

「怪我では無いわね。実力も落としてないしどこも支障は出てないわ。でも、アタシは冒険者失格だったから」

「失格って…?」

「失格よ、アタシは。ここで話すような事じゃないからまたそのうち話してあげるわ。貴方が冒険者になるまでにはね」


食事中の人に聞かせるられるような話ではないから曖昧に濁してしまう。きっとツバサだってデザート前に聞きたいような話では無いわ。言葉にすればたった一言だけれど軽い話ではないものね。それでも始めに彼が言ったように追求してくる事は無かった。本当に聞き分けの良い子。


「それにしてもレイズが誰かに物を譲るなんて珍しい物が見れたわ。ツバサよっぽどレイズに気に入られたのね」

「え、気に入られたって訳じゃないと思うけど。それこそハイドさんの知り合いだから、とかなんじゃ…」


強引に話題を変えてレイズの事を話せば驚いた顔をした後首を振られた。そんなことで他人に構う程甘い性格じゃない事を嫌って程知っているアタシからすれば破格の待遇と言っても良い。

アレクだってそう。アタシが居たって見知らぬ他人が居れば同席するような事はないし物をあげるなんて事も2人は絶対しない。そう告げればまた驚いた顔をして、でも…と首を傾げる。


「ふふ、2人もね横暴だしマイペースで口も悪いけど本当に悪いヤツ等ではないのよ。嫌じゃなかったら普通に接してやってちょうだい」

「ハイドちゃん、片付けありがとぉ。デザート出来たわよぉ。持って行ってあげてー」

「とりあえず置いてあった分は片付けたから手が足りなくなる前に呼ぶのよ?」

「はぁい、いつもありがとぉハイドちゃん」


いつもギリギリまで1人で厨房を回そうとするヘレナに釘を刺すと笑顔で返事が返る。この子は無理するから心配なのよね。けれどあまり休暇中の人間が仕事を取っても出勤の子達にも気を使わせるからツバサにも軽い方のトレイを持ってもらってテーブルに戻った。


「お待たせ。アンタ達いつもこれよね」


アレクはキャロットケーキと濃いめに淹れたホットコーヒー。レイズは顔に似合わず甘くて重たいチョコレートケーキのハーフサイズとブラックコーヒー。レイズは普段の性格的に甘い物は嫌いそうだというのに本人はとても甘党。消費するエネルギーが違うと言うけど似合わなくて始め知った時には笑ってしまった。


「ここはこれが1番好きだったので。何か文句がありますか?買い取りますよ?倍額で」

「アンタ喧嘩を倍額で買い取るの本当に辞めなさいよ。今じゃ下っ端への洗礼になってるじゃないの」

「弱い者は要らないでしょう。丁度良いのでは?もっと蹴り甲斐のある方が私は良いんですけどね」


そう答えてくるのも相変わらず。アレクは見た目が大人しそうに見えるせいで新人に舐めてかかる奴が多い。星6ランク超えの腕輪を見れば本来逆らえばどうなるかは分かるでしょうに分からない馬鹿は多い。


アレクがそんなにランクが高いのはレイズやアタシと居てパーティ任務でポイント貰っているからか、星6なんて大した事ないんだろうって台詞も一緒に居た間でも10回以上は聞いたわね。その度に何も言わず普段と変わらない無表情で重い蹴りを繰り出し遠くまでふっ飛ばすのが常。または、数が多ければレイズまで手を出している。

アタシは温厚だから何もしなかった。その代わり止めもしなかったけどね。


「冒険者って上下関係とかないんですか?先輩には逆らうな的なのとか」


アタシ達の会話が気になったのかツバサも不思議そうに首を傾げて聞いてくる。期待に答えられないのがとっても残念だわ。


「ギルド的にはありますが、所詮実力主義ばかりなので見た目で舐めて掛かってくる馬鹿は多いですよ。貴方も冒険者になるつもりなら最初が肝心ですよ。舐められればカモられます」

「まず実力を示さなきゃいけないのが同じ冒険者とか嫌な話よね。中途半端なランクのやつ程馬鹿は多いの」

「オレほとんど喧嘩とかした事ないんですけど…」


ほんと元冒険者として申し訳ないわ。当時の馬鹿共はあまりにも目に余れば叩き直したりもしたけれど離れてからは一切手を出してないものね。たまにアタシが元高ランクの冒険者だと知って喧嘩を売ってきた馬鹿が居たから潰してやったくらいかしら。


-------------------------------------------------------------------------------------------

「温厚だけど一切何もしてないとは言ってないけどね」


ハイド語り二度目!今後ヘレナ語りとかも書きたいです。凄く文面からも癒されそうw

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る