初めての武器

「え、何で?」

「いいそうびはじどうちょうせつがついてるニャ」

「自身の爪を使うよりは距離が取れますし貴方には丁度良いのでは?」


起こった事が信じられず手首に嵌まった腕輪を凝視しつつ触れてみると重なるようにパネルのような物がぼんやりと浮かび上がった。


・フレイムクロウのブレスレット

上位精錬せいれん品。自動調節機能付き。下位回復機能付き。火属性の爪を出現させる事が可能。耐久度77


またネーミングセンスがなんとも言えない…。誰だよこんな仕組み作ったの。もう少し捻った名前でも良かったんじゃないだろうか。こちらとしてはそのままで分かりやすくて良いんだろうけど名前のがっかり感は酷い物だ。というかこれ、なんで見えたんだろう。


「かいふくあるニャ。ちょうどいいニャ」

「本当に貰っていいんですか?それか、お代払うとか、何かお礼させてもらえませんか」


昼間ギルドで助けてもらって、地図も奢りでいっぱい買ってもらったのに更にこんな高そうな武器もらうとか貰ってばかりで申し訳なさしかない。子供の見た目してるって言ったってこれは甘え過ぎじゃないかと思う。


「レイズが勝手にしてるんだから素直に貰っちゃって良いわよ。どうせレイズが要らないやつでしょ」


料理を持って戻って来たハイドさんにそんなことを言われ頭を撫でられる。確かに本人もそう言ってたけど。これはオレが遠慮しすぎなのか?こういうのって冒険者には普通なのかもしれない。 仕方なく頷いて素直に貰うことにした。


「ありがとうございます、レイズさん。大事に使います」

「耐久度が無くなりゃ壊れる消耗品だ。壊れたら次は自分で買え」

「それにしたってレイズは壊し過ぎでは?」


聞けばレイズさんも昔はナックルとか拳系の武器を使ってた事も有ったらしいけど腕力が強過ぎて攻撃を受けたとか攻撃のし過ぎとかではなく、強く握り過ぎて1回戦闘する度破壊していたらしい。

予備も沢山買ってたらしいけどそのうち買い換えるのが面倒になって武器は持たなくなったんだとか。腕力が圧倒的に高いからナックルが有っても無くても特に攻撃力に差はなかったと当時を知るハイドさんも苦笑してた。


「アレクさんは魔法攻撃ですか?」

「いいえ、貴方余程私を魔法使いにしたいようですね。私は蹴りです。レイズのような脳筋では無いので私の靴には隠し武器も健在ですよ」

「あ?黙ってろ、暴力兎」

「特大ブーメラン刺さってますよ、暴力狼」


そう言って睨み合う二人だけどその傍ら夕飯中の為迫力はあまりない。オレの斜め前ではハイドさんが楽しそうに笑ってたりするし。


「この流れって、ハイドさんも暴力人間だったりします?」

『そう(ですよ)だぜ』

「違うわよ!ツバサ、信じないでちょうだい。アタシは穏便に言葉で解決してたわよ」


思い付きで聞いてみれば二人からは肯定が帰ってきたけど本人が慌てて否定して来る。逆にこの慌てっぷりが怪しいと見ていればすぐ答えは知れた。


「★6以上の冒険者が大剣向けて対話じゃ脅しだろ」

「ある意味私達より精神的トラウマを植え付けたのはコレですよ。だから変態に成り下がるしか道が無かったんじゃないですか」


そう言って指で示されたハイドさんはなんだか必死に違ぁう!と否定したがっているけど別に昔だし良いんじゃ無いかと思う。逆にそうやって変わろうと努力したのは凄いと思うと伝えたらどこか困ったように笑われた。

オレが子供にされたのも多分そういう事で元居た世界じゃないとこでやり直せって事じゃないかとは最近思っている。


当然元居た世界でだって子供の頃は孤児院で大人達に面倒見てもらって育ててもらった。けれど子供ってのはなんだかんだで向けられる感情には敏感だ。親を亡くした子供への同情心や義務感のような物が感じられて結局オレは素直に甘える事も出来ず早々に此処を出て人に迷惑を掛ける事なく生きようと決め、中学卒業と共に全寮制の高校に入り奨学金を貰い授業が終わるとバイトに向かい孤児院の世話にならなくて済むように働いた。


日々の課題とバイトに追われる生活は楽ではなかったけどそこそこの会社にも就職出来てやっと仕事にも慣れて来た時にこれだ。オレの生き方は多分賢くはなかっただろうと思うけど、そんなものを丸ごと無視して子供に戻されしかも今までの常識なんて一切通用しないこの世界。

やり直せ、変われと言われているようなもんだと思うのも当然だと思う。


「ツバサ、デザート食べるでしょ?何が良い?」

「…え?デザート?」

「今日は大食いピーチのコンポートもあるわよ?」

「大食いって、ピーチって果物のピーチじゃないの?」


またおかしい食い物名出てくるし。なんとなく昔を思い出していたらテーブルの空いた皿なんかを片付けて戻って来たハイドさんに呼び掛けられて顔を上げるとそんな事を言われた。ピーチってオレが知ってるやつならただの果物の筈で栄養と言えば水と太陽の光だ。大食いって意味が分からず首を傾げた。


「分類は今も意見が分かれてるけど味覚で言うならフルーツね。ただあれは水を大量に吸収し大きく育てばそれでは足りずに僅かな水分を求めて体液のある物ならモンスターも人間も食べるわ」

「ノロマだから雑食ヤギ程危なくはねぇし数もそんなに居ねぇが秋に近付くとあれは根をはって増えるからな。面倒なやつには違いねぇ」


ピーチ違いだった。見た目か味がそれっぽいから多分そう名付けられたんだろう。でも植物ではない。2人の言い方だと普段は根をはってないって事だし動くらしい。動く植物ってなんだよ。しかも桃なら花と花粉で増えろよ。芋系かよ、とツッコみたくなったけど何も言わず代わりに出会ったら絶対ヤギ同様逃げようと決めた。


「余計どんなのか分からなくなったけど、じゃあそれで」


便乗して2人も一緒に飲み物とデザートを追加注文していて、レイズさんがブラックコーヒー頼んでたからそれにはオレも便乗させてもらった。

字が読めないから実はまだ食べた事あるやつかオススメされた料理や飲み物しか名前が分からないままだ。

これについてもどうにかしなきゃな、と思いながら2人に声を掛けてテーブル席を離れハイドさんに手伝いに追い掛けた。


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『味なら果物。でも根もなく動くなら動物?』


いつか回想で暴力三人組の暴れてる話は書きます。それまでお待ちを!

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