おばさんは押しが強い物です

「いらっしゃ…おや、アンター昨日のネコの坊やじゃないか。おつかいかい?」

「昨日はごちそうさまでした。おつかいっていうか、ここには一人で来たし昨日からオオカミのおうちでお世話になる事にしたので色々買い揃えたくて」

「アンタまだちっさいのにもう独り立ちしたのかい!?そりゃ色々入り用だろう。好きに選びな!着替えは足りてんのかい?」


やっぱり世話焼きな近所のおばさんみたいだ。寝間着とかも無い為買いたい事を告げるとちょっと待ってな!と言って店の奥にかけ戻っていった。ちょっとだけ高校の寮に居た寮母さんを思い出した。あの人もなんかオレを見かける度にちょっと待ってな!って走って行っておかしとか、夕飯のおかずとか色々くれる人だった。


戻って来たおばさんは布袋みたいな物になんか大量に服を詰め込んで来ててそれを無造作に置くとまた呼ばれる。え、どういう状態?


「うちの子が坊やくらいの頃に着てたやつなんだけどね、そろそろ捨てちまおうと思ってたんだよ。坊やさえ嫌じゃなきゃ持ってってくれないかい?」

「え、でも、お孫さんとか…」

「孫は女の子ばっかでね。取っといても仕方無いんだよ。ただ捨てちまうよりは坊やが着てくれる方が服も喜ぶさね!」


そう言って豪快におばさんが笑って服を取り出して並べていく。このパターンは知ってる…。遠慮しても押し切られるやつだ。寮母さんもそうだった。

結局なるべくシンプルなやつばかり上下10着は選ばれ、持ち帰り用にとリュックも貰ってしまった。 案の定捨てる手間が省けて助かったとお代も受け取ってもらえず、仕方なく色々と雑貨を買い込んだ。


元々欲しいと思ってた小銭入れとか、クッション、フェイスタオルとバスタオル数枚、下着数枚、宿の人用にと誤魔化して灰皿とか色々まとめて買ったら結局は結構な量になってしまいもう1個でかい鞄も買った。結構買ったのに2000リル行かなくて愕然とした。ここの経済本当にどうなってるんだ。どう見てもこの世界は経済発展国にしか見えないし普通それなら物価は上がる筈じゃないのか?安いのは住む側にしたら有り難いけど。 多分元の世界でこれだけ買ったら5千円は余裕で超えたと思う。


「ありがとうね、坊。足りない物がありゃまたいつでも来とくれ。本当に1人で持って帰れるのかい?旦那にでも持って行かせるよ?」

「大丈夫です。あの、お…僕ツバサって言うんです。出来たら名前の方が…」

「ツバサだね。私はケイトさ。ケイトおばさんとでも呼んどくれ。気を付けて帰るんだよ」


そう言って笑ったケイトおばさんにお礼を言って店を出ると思ったよりも時間が経っていてもうお昼時になっていた。流石に朝飯抜きだったからお腹が減ったしどこかでお昼にしようかと思ったけど町中で食べるのはどうかと思い場所を探す事にする。


「そういえばケイトおばさんのとこに地図は無かったな。地図ってどこで買えるんだ?教会とか?」

「ぼうけんしゃギルドにあるニャ」

「結局行くしかない訳か…。まだ避けたかったんだけどなぁ」


でも迷子になるとかかっこ悪すぎるし早めに買っておく方が良いのは確かだ。ギルドの場所は昨日お風呂の時にツイードさんが言ってたからなんとなく分かる。

教会とは逆方向だから適当に目立たない場所で荷物をアイテムボックスに入れてから引き返した。

逆側はギルドがあるせいか冒険者向けのような物を売っている店が多い。

回復アイテムっぽいのや、武器、防具、保存食。武器とか防具もそのうち買う方が良いだろうなと思いながら今は通り過ぎた。


「白雪、冒険者ギルドの看板見えたら教えて。オレ字は読めないから」


「ニャ!?さっきすぎちゃったニャー!かいものじゃなかったんにゃぁ…。あのあかいやねニャー!」

「ばっか!それならせめて過ぎる前にアレって教えろよ!」


どこか抜けてる白雪が手で指したのはほんとに少し前に過ぎてきたとこで外には何も出てなかったから何の店だろうと思ったとこだった。

見た目想像してたいかにもギルドって感じじゃなくてそうとは分かりにくい。でも中から声は沢山するから飲み屋かな、くらいに思っていた。もっと分かりやすく剣でも飾っといてくれればいいのに。


何ていうのかは分からないけど西部劇とかでよくある両開きのドアみたいなのをくぐるとギルドは盛況らしく人の声が飛び交っている。この時間に来たのは失敗だったかもしれない…音が聞こえ過ぎて耳が痛い。

どうやら音がうるさいのは苦手だったらしい。多分だけど無意識に耳がペタンってなってると思う。白雪も音から逃げるように服に潜り込んで来たし。そんな感じで声に圧倒されて入り口で動けないでいると突然横から引っ張られてよろける。


「すいません、邪魔でっ」

「別に。チビ助耳痛いんだろ。なんでこんなとこ来た」


引っ張った人はそのままオレを壁際まで移動させると少しでも声を遮断出来るようにかオレの頭に上着を掛けて不機嫌そうな顔で聞いてくる。灰色の髪に鋭い金の目で怖い人かと思うけどこうやって助けてくれるんだから多分悪い人では無いんだろう。


「この街に来たばかりで、地図が買いたくて来たんです。平気ですから」

「地図なら教会行けよ、馬鹿だろ。外で待ってな。アレク、チビ出してやれ」

「人助けなんて珍しい事も有る物ですね。猫の少年、アレに任せて出ますよ」


また不機嫌に言ってもう一人の知り合いみたいな人に声を掛けると中へと歩いて行ってしまった。そして今度は真っ白の男の人に手を差し出されて戸惑ったまま外に連れ出されてしまった。 声から離れられたのは有り難いけど少しギルドの中も見てみたかった。


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『ギルドってここにしかないし、いかにもって気がするじゃん?』


ケイトおばさんとてもお気に入り。こういう気のいい元気なおばさんになりたいものです。ツバサが実際ギルドに出入りするようになるのはまだまだ先になります。

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