サービスシーンはカット

「はーい」


ベットから起き上がって返事をすると同時にドアが開いた。…鍵締め忘れてたみたいだ。

扉から顔を出したのは知らないひとだ。深い紫髪のロン毛だけどウルフカットって言うんだっけ?上がちょっと逆だってて下の方だけ胸くらいまで長い。イケメンだと思うけど目付きが少し鋭いから真顔だと怒ってるみたいに見える。その人はオレを見つけるとへらっと笑って勝手に入って来た。 笑うと柔らかくなって子供みたいだった。


「誰?っていうか何ですか…」


「居た居た、猫のチビ。風呂の用意出来たから迎えに来てやったんだよ。いっくぜー」


「うっわ!?またかよ!降ろせっ、不審者ー」


ズカズカ部屋に入って来てオレの前まで来たかと思ったらまたひょいっと抱き上げられて俵担ぎにされる。

この世界の人って人の事抱き上げるの恒例なのかよ。しかもしっかり腰がホールドされてて暴れてもまったく外れる気がしない。苛立ったオレは衝動のままに背中を叩きながら文句を言う。


「不審者ってひっでぇの。チビ今日からだろ。風呂の事とか知らねぇじゃん。俺やっさしー」


「優しくねーよ!場所ハイドさんから聞いたし!っていうか降ろせー」


「りっぱなネコさらいにゃー!ツバサうごくニャ、おちるにゃー!!」


暴れようが軽く流されそのまま部屋を出ていき歩き始められる。オレが担ぎ上げられたのを見て身軽に駆けのぼって来た白雪がむしろ振動で落ちかけ悲鳴を上げたのでわし掴んで偶然有った男の服のフードみたいなとこに放り込んだ。


「チビ猫2匹にゃーにゃー言ってんのかーわい。そのハイドに頼まれたんだよ。チビ風呂に入れてやってくれって。すっげー残念そうだったけどなー」


「は?ハイドさんに?知り合い?」


「おう。だって俺もう3年以上ここに居るもんよ。ここの事なら全部知ってる先輩だぜー」


「……ハイドさん達が言ってた3年泊まってる馬鹿な人か…」


まさかの噂の人だった…。なんかどっと疲れてそのまま脱力した。この人ならやりそうだと納得してしまった。

冒険者だって言ってたから腕力も有って当たり前だ。オレチビだし…。

もう夜だから夕飯に帰って来ててついでにオレの事頼んだんだろう。

既に冒険者の装備的なのは脱いでいるからすぐには冒険者だって事は分からなかった。


「チビさっきからひっでぇのー。俺ツイード。チビは?」


「酷いって言うなら降ろしてから言って下さい、立派に拉致だから。オレはツバサ…」


相当感じ悪いと思うけど誘拐犯ツイードさんはケラケラ笑って見事なくらいにスルーして歩き続ける。優しいのかただ何も考えてないのか分からない人だと思う。

白雪をフードに放り込んだのも何も言われなかったし暴れても怒らない。むしろ可愛いとか言ってるし変な人だ。


結局降ろしてもらえたのは広い脱衣所に着いてからだった。男女分かれてるっぽくなかったけど混浴だったりしないよな?何か札が掛かってたしそれで時間ごとに分けてるのかもしれない。



「おはようございます。ヘレナさん、ここ持ち帰りメニューも有るんでした?」


「ツバサちゃん、おはよう。サインドイッチ系なら持ち帰りもあるわよぉ?」


「じゃあオススメので作って下さい。ちょっと出掛けて来たいんでお昼用にしたくて」


結局あの後はツイードさんとお風呂に入って、帰りも担いで運ばれ部屋に戻ると寝てしまった。

起きてみると既に10時を過ぎていて適当に寝癖だけ手櫛で直して鞄を持って部屋を出て来た。昨日着替えも寝間着もない事に気付いたし、買い物と街を見て回ろうと思った。


「はぁい。すぐ出来るからその間飲んでてね。食べなくても水分くらいは取らなきゃ駄目よぉ?」


注文を受けて笑ったヘレナさんは一度奥に引っ込むとトレイに牛乳みたいな飲み物のグラスと白雪用の小皿を差し出してくれた。一緒に言われた言葉が孤児院に居た頃もよく言われてた言葉で思わず苦笑してしまった。

素直に受け取ってカウンターに座ると店内を眺めてみる。ピークは過ぎてるのか昨日くらいの人数しかお客は居ない。夜はほとんど埋まってたけど。


種族で良いのかな、種類も色々居て戦う人っぽく武器持ってる人とか買い物袋みたいなのを側に置いてる人も居る。ハイドさんは今は居ないみたいで知らない女性の店員さんと目が合って微笑まれる。 仕事の邪魔したみたいで少し申し訳なくなった。


「ツバサちゃんお野菜とかで嫌いな物はなぁい?」


「あ、はい。好き嫌いなく多分何でも食べれます」


こっちの野菜事情は分からないけど向こうでは好き嫌いなく食べてたから大丈夫だとは思うけど、自信のない返事になってしまった。でもとんでも無くアクが強いとかクセのあるやつがないとも限らないし。 苦手でもよっぽどじゃなきゃ食うけど。


「ツバサはすききらいないニャ?」


「いや、ほんとはブロッコリーあんまり好きじゃない。でも好き嫌いとか迷惑でしかないし出て来たら食える。進んで食わないってくらい」


「ヘレナーチビブロッコリー嫌いだってよー!」


「はぁっ!?ちょ、誰!」


後ろからの突然の声に振り向くと人の悪い笑みを浮かべたツイードさんが居た。

気配とか全然しなかった。 冒険者だからこれが当然なのかもしれないけど心臓に悪い。


「って!ヘレナさん嘘ですから!ブロッコリーオレ食えます!」


もう遅いだろうけど慌てて訂正してみる。案の定遠慮しなくていいのよー、とにっこり笑われた。 何てことしてくれるんだこの人。もう多分ブロッコリー使った料理絶対出されないと思う。

ブロッコリーってグラタンとかの多分具の定番だってのに。いや、字が分かるようになれれば注文しなきゃ済む話だけど覚えられるか分かんないし、覚えるまではオススメメニューで乗り切ろうと思ってたのに…。


「何でチクるんですか。ヘレナさんに迷惑掛かるのに」


「チビのうちは遠慮することねーじゃん。ワガママ言ったって誰も怒んないぜー?食わなくて良いって嬉しくね?」


「別に。迷惑掛ける方が嫌いです」


思わず後ろで笑ってるツイードさんを睨んでみるけど効果はない。

この人半分以上人の話聞いてないし。 今だって笑ったまま勝手にオレの横に座ってオレの牛乳飲まれた。それから慣れたように朝食を注文している。

昨日も大体こんな感じだったから後半抵抗する気も失せて好きにさせていたら帰りも部屋まで担いで帰られた。


「というか昨日朝から仕事がどうのって言ってませんでした?朝飯食ってる時間あるんですか」


「パーティー任務じゃないし良いって。あれから酒飲んで寝たら普通に寝過ごしたんだよなー」


1人のだから良いとか有るのか?開始時刻指定が朝からになってるって事は早めに終わらせて欲しいって事じゃないのか? とりあえずこの人のは悪い例だと思う。


「チビ信じてないだろー?ほんとに良いんだって!」


「報酬減ったりとかは…?」


「ないって。ちょこっと怒られるだけ」


駄目じゃん…。絶対ギルド泣かせの人だ。ある意味これだけ自由に生きれるのも羨ましい。ギルドもそのうち入るか考えなきゃいけないけど実力分かんないからな。魔法もまだ使い方聞いてないし。


「ツバサちゃん、ツー君お待たせぇ。はい、ツバサちゃんにはこれねぇ」


相変わらず早業で調理してくれたヘレナさんからケーキの箱みたいな物をもらう。持ちやすいようにって配慮なんだろう。オレはアイテムボックス持ってるから後でしまっちまうけど。


「じゃあいってきます」


「いってらっしゃーい、ツバサちゃん」


席を立って軽く頭を下げて告げると笑顔で見送られる。行ってらっしゃい、なんて何年振りに聞いただろう。 まずは昨日の雑貨屋に行ってみようかな。色々買いたいし。


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『ブロッコリー食えない訳じゃないから…』


キリのいいところまでと思ったら少し長くなってしまいました。でもここ切りにくいのでそのまま投入w

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