5年ぶりの再会は異世界で
ハイドさんに部屋に通されお風呂待ちになったオレはやっとチビと二人になった事でふと気付いた。ずっとチビって呼んでるけどコイツにだって名前が有るんじゃないかって事に。
「そういえばお前名前は?」
「あるけどないニャ。ニャーのなまえはツバサのなかニャ」
なぞなぞみたいなことを言われた。そもそも導く者ってなんだろう。コイツはオレをどこかへ神様とやらの命令で導こうとしてるのか?パートナーとか相棒って自分で言ってたけどあちら寄りなのか?
「なぁ、そもそもお前ってなんなんだ?何でオレのとこに来た?」
「ニャーはツバサとえにしがあったにゃ。だからカミサマがたましいをひろってツバサのてだすけができるようにしてくれたのニャ。ほんとうにおぼえてないニャ?」
えにし。縁があったって事だと思う。此処に来る前なんだろう。此処じゃ純粋に猫はコイツしか見てないから前の世界でだ。唯一触れた覚えが有るのは高校一年の時、雨の日に出会った小さな捨て猫。
ダンボールから体に似合わない大きな声でオレを呼び止めた。
でも当時のオレはペット禁止の学校の寮暮らしで飼ってやる事なんて出来なかった。
だから一度は無視して通り過ぎたけど結局見て見ぬ振りも出来ず、一旦引き返して自分がさしていた傘を立て掛けてコンビニに駆け込んだ。
一番大きなサイズのビニール傘とタオルいくつかと仔猫用の缶詰め。人間用の牛乳はお腹を壊すとちらっと聞いたことがあったから急いで食べた空のスイーツのカップに水も用意して濡れず飢えずに少しでも正しい飼い主を待ってられるようにした。
『お前真っ白で雪みたいだから
小さな体を拭いてやるオレとタオルに包まれた仔猫の姿と一緒に独り言のように言った言葉を思い出した。我ながら白いから白雪とかちょっとネーミングセンスを疑いたいけど。でもそうだアイツも白の仔猫だったんだ。
「お前もしかして…白雪?」
「にゃ!あのときのニャーはあのまましんだけど、いまならひろってくれるニャ?ツバサ」
「ばっか、忘れてて良かったのに…。拾うも何も、もう神官さんから預かっちまったんだから返せないだろ…」
人の言葉をしゃべるようになった分あの時よりもうるさいけど、縋るように見てくる目は出会った時のあのままだ。 何だか泣きそうになった。
あんなもんただの気まぐれのようなもんで、気軽に言った口約束だ。そんなものを死んでまで覚えてなくていいのに馬鹿な
「まったく…改めてよろしくな、白雪」
「すてきにツバサをナビゲートニャ!」
「ナビゲートって何出来るんだよ」
肩か頭にただ乗ってるだけの癖に。チビだから重くもないしいいけど。
「ニャーはおやくだちニャ。ランバートもいってたニャ?このせかいのわからにゃいことはニャーがおしえるにゃ!」
そういえば分からない事があれば私か導く者に、って言われたな。軽く聞き流してたけど。とりあえず見た目ただの猫のくせにドヤ顔に見えて微妙に腹立ったけど見なかった事にした。
それからステータスもざっくりとしか聞いてなかった事を思い出した。実感もない時に聞いても理解出来る訳ないし。 微妙に混乱してたし。
確かアイテムボックスとか有ったと思うんだけど。
「うっお、なんだこれ。白い紙?」
「マップだニャ。ほら、みるニャ。きょうかいからこじいんとオオカミのおうちまでのみちがしるされてるにゃ」
「歩いた道しか記されないのか?」
っていうかここオオカミのおうちって名前だったのか。それより、記述式って面倒だな。 字は読めないし、すぐハイドさんの襲撃食らったから字が読めてたとしても多分見るタイミングなかったとは思うけど。
「ちずをかってアイテムボックスにいれておけばぜんぶみれるニャ。まずはちずニャ!」
「そのアイテムボックスはどうやって見るんだよ。あとお金とか」
「アイテムボックスはツバサのカバンとつながってるにゃ。あけててをいれてみるにゃ」
部屋に入ってすぐソファに投げておいた唯一向こうから持ってきていたカバンを指さすんで取ってきてみる。別にいつも持っていた長方形の肩に下げるタイプのカバンだ。見た目は何も変わらない。
半信半疑で手を突っ込む。いつもなら直ぐに入れてる財布やケータイに手が当たる筈なのに広い空間に手を伸ばしたかのように手は空を切った。代わりに脳裏にはPCとかでよく見るようなアイコンが並ぶ。
所持金 2000000リル
・財布
・ボトルコーヒー (∞)
・タバコ(∞)
・ライター(1)
・スマホ(1)
・イヤホン(1)
・携帯灰皿(1)
・回復丸(10)
・MP丸(10)
「白雪、普通の数字はいいけど2種類だけ∞になってんだけど」
「カミサマのじひだニャ。ツバサのすきなものをなくならないようにしてくれたにゃ。ほしいものをおもいうかべればとりだせるにゃ」
「じゃあコーヒーとタバコとライターと灰皿…」
思い浮かべるとカバンがいつもの浅いカバンに戻りそこにはいつものようにタバコとかが入っていた。アイテムボックス便利過ぎる。とりあえず1本タバコを取り出してライターで火を点ける。
先から紫煙が上がり馴染んだバニラのような甘い香りが部屋に漂いやっと人心地付いた気がした。
タバコを吸う人間からしたらタバコの香りとはマーキングのような物だと思う。少なくともオレは慣れた匂いに包まれている方が落ち着ける。
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『5年前に出会った子猫が押し掛けて来るとか正直全く想像していなかった…』
個人的に今回の再会シーンは大好きです。妙な切なさに実は執筆しながら少し泣きました。作者自分で書いた物にすら泣きます(;・д・)
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