新しい帰る場所一つめ
「この先が従業員フロア。今はアタシとヘレナだけで他の子達は通いなの。そして階段から先のあっち側が宿泊フロア。今はこっちもほとんど空いてるわね」
「街に滞在していく冒険者が少ないとか?」
「少ない事もないけど他の街に比べたら少ないわね。この街がどうって訳じゃないのよ?」
この街は付近に強いモンスターなんかも然程種類が多くなく、駆け出しの冒険者が練習に通ったり、特殊ダンジョン攻略に来たりするくらいらしい。他の街へもすぐ行き来出来るから宿泊してって人はそんなに居ないんだとか。
強いモンスターも居なくてしばらく安全に暮らせるならその方が良いから気にならなかった。
ほとんどのドアに掛けるタイプの札のような物が掛かっていてそのうちの1つの札をハイドさんが外して扉を開ける。
こっちもどちらかと言えばシンプルでソファとテーブル、ベットとタンス、クローゼットみたいな両開きの扉とあとは大きな宝箱が置いてあるくらいだ。洋画の海賊とかが戦利品として持ってくる感じの大人でも中身入りなら二人で抱えるくらいのやつだ。
「なんで宝箱?」
「ヘレナの趣味ね。鍵も有るから貴重品入れとして皆使ってるわ」
そう言ってハイドさんが苦笑した。でも良いホテルだと貴重品入れに金庫が置いてあったりするし、腐らない物ならそこそこ入れておけるしありなのかもしれない。
冷蔵庫はないけどオレの場合はアイテムボックスに入れれば済むらしいし。
シンプルだけどそこそこ広くて綺麗な部屋で良い部屋だと思う。これだけ揃ってたら長期滞在でも良さそうだ。
「今は常連の冒険者が2人ほぼここに住んでるくらいね」
やっぱり住んでる人居た…。
「悪くは無いでしょ?強制はしないけど考えてみてくれるとアタシも嬉しいわ」
部屋を出て階段を降りるとまず廊下と裏口があり右手側は厨房に続いてるらしくておいしそうな匂いがしている。左側は少し先に壁と扉が見えた。
「あっちは大浴場とかね。掃除やお湯の準備中意外は宿泊客なら自由に入れるわよ」
確かに宿泊客が冒険者なら風呂も必要かもしれない。戦って来た場合汗もかくだろうし汚れて帰って来るだろう。そしたらやっぱ綺麗にしときたい。あと何より一日出歩いただけでも埃っぽくなるというしやっぱり寝る前にはお風呂入りたいよな。この世界にも風呂文化が有って良かった。
「この先がさっき居た食堂の方。ヘレナ、ツバサちゃん起きたわよ」
「あら、もう良いのー?うん、お目々ぱっちりさんねぇ」
「あ、はい。途中だったのにすいません。夜ほとんど寝てなくて…」
「いいのいいの。気にしなぁいの♪」
まだ空いてる時間なのかカウンターに座っていたヘレナさんに頭を下げると優しい手付きで頭を撫でられる。
手も声も柔らかくてほっとした。何で初対面なのにこんなに優しいんだろうと思う。
「ただいまー。あ、ツバサ!おはよう。もう平気?」
答えようとしたタイミングで入り口の扉が開き大きな紙袋を抱えたレサさんが入って来る。すぐにオレに気付いて笑いかけられる。レサさんも本当に優しい。
「もう大丈夫です。少し寝てすっきりしたんで。レサさんも驚かせてすいません」
「それなら良かった。ハイド、ハニーオレ一つお願いー。ツバサも飲む?」
どさりとカウンターに一度荷物を置いたレサさんにハイドさんから水のグラスが差し出されそれを一気に飲み干してから足りなかったようで更に注文をする。グラスを受け取ったハイドさんがそのままカウンターの内側へと入っていった。こういうとこスマートだよな。
「あ、じゃあオレも…ハイドさんさっきので!」
名前でとか注文出来ない。名前知らないし、文字読めないし。けど分かってくれたみたいで返事があった。
「そうだ、ツバサちゃん。レサちゃんから聞いたんだけど街に来たところでまだ宿決めてないんですって?」
「あ、はい。ここにくる前に少し歩いただけでほとんど街も見れてないんで」
「うちなら3泊2食付きで2,000リルで泊まれるわよぉ?その他ご飯や飲み物も宿泊中は半額で大丈夫!」
安いかは知らないけどあの部屋でお風呂も有って、ヘレナさんのご飯付き…それだけで相当好条件な気がする。
チビも器用に前足でオレの肩叩いて『ここにするニャー!』って言ってるし。ていうか叩くな、微妙に痛い。
「じゃあ一旦3日でお願いします」
「はぁい。延長はいつでも大丈夫よー。ツー君もうずーっと住んでるからぁ」
「ツィードは本当に長いわよね。3年くらいは居たかしら」
それはちょっと長すぎ。それくらいなら家買うか建てる方が良いと思う。
というかオレなら建てる。
2食付き、風呂付きは良いけど飯が惜しかったらご飯だけここで済ませればいいだろう。結局そのまましばらく雑談を続け夕飯も貰ってからハイドさんに空き部屋に案内してもらった。
風呂は今お湯の準備中らしく入れるようになったら教えてもらえる事になった。
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『ちなみにまだオレ一切お金払わせてもらえてない。レサさん太っ腹すぎる…』
昼食代、夕飯代、3日分の宿代もレサに奢られたツバサでした
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