子猫達は夢を見る  ※ハイド視点

空いたお皿の回収を済ませ、ついでに帰るというお客の会計も済ませてから厨房の方に引き上げてきた。もうお客も減ってる時間だったからシンクに溜まったお皿も少なくはあったけど、ヘレナはこの後ナイトタイムの為の仕込みも有るからね。少しでも負担は減らしてあげたくていつもある程度厨房の事も手伝うようにしている。

洗い物をしながらホールを見ているとどこかぼんやりとしたツバサと目が合った。 手を振ってみるけど反応はなし。期待してなかったから良いけどね。

他に見ていなきゃいけないようなお客さんも居ないからそのまま観察していると小さな欠伸をするのが見えた。 ゆっくり食事は続けてるけどほとんど手は止まっているようなもの。 眠いのかしら。


店の前で出会って強引に連れて来てしまった自覚はあるけれど、あの子は初めからどこか危うくアタシには見えていた。おそらく10才になるかならないかくらいの小さな体なのにもう周りに気を使う事を覚えてしまっている。レサの知り合いだとは思うけどそれにしてはどこかよそよそしくて他人行儀で、そんなものはあんな小さな子には似合わないのに。


そんな事を考えているとヘレナが何か言ったらしく断るように首を振る。

そして一瞬暗い目をしたのが見えてしまった。放って置けなくて後は拭くだけになった食器を置いてテーブルへと向かった。


「迷惑掛けずに生きてかないと…」

「ツバサ。もう良いから今は寝ちゃいなさい」


偶然聞こえた小さな声に堪らず腕を伸ばして何度か抱き締めた体を抱き込むと、小さく吐息を溢して素直に腕に収まりあっと言う間に眠りに落ちた。


「ヘレナ。後は拭いてしまうだけだから頼んでいいかしら?休憩ついでに少しアタシの部屋でこの子寝かせて来るわ」

「はぁい。賄いは温めなおして持っていくわねぇ」

「レサはどうする?用があるなら夕方まで預かるし暇ならヘレナの相手してってくれてもいいわよ?」


幸いこの子の声は聞こえなかったのかいつも通りの笑顔を見せてくれるヘレナに癒やされる。優しいから心配するものね。頷いて椅子から軽い体をそっと抱き上げると魚料理を平らげて毛づくろいをしていた真っ白な仔猫が短く鳴いてツバサの体に飛び乗って来る。


「そうね。少しヘレナと話したら一度出て買い物を済ませて戻るようにしようかな。ツバサをお願いねー、ハイド」

「分かってるわよ。ヘレナ、何か有ったら呼んでちょうだい」

「はぁい。もうすぐアイちゃんも来てくれる時間だから大丈夫よぉ。ハイドちゃんもナイトタイムまで休憩でいいからゆっくりしてきてね」


ヘレナの優しさに笑って頷き小さなツバサと荷物を持って二階の従業員スペースの中に有るアタシの部屋に戻りそっと降ろした。こんな小さな体でこの子は何を背負ってるのかしら。 柔らかく髪を撫でているとコロリと寝返りを打って丸くなったツバサのお腹には同じように仔猫が丸くなっていた。

当たり前だけどこの仔猫の事も知らなければツバサ自身の事も知らない。

最近よく話すようになり友人となった子が突然連れて来たヘレナと同じ獣人族の子。

けれどヘレナが犬人族なのに対しこの子はおそらく別種族だろう。

迷子なら自警団に連れて行って預けてしまうだろうから違うし、拾った孤児の子にしては身綺麗だし違う。移住者や旅行者にしては持っていた荷物は小さな鞄一つきり。

既にしばらく此処に居て今日偶然レサに会ったのかしら。でも前からの知り合いって感じではないのよね。数年前までアタシの腕にも有った冒険者を示す腕輪も無いし考える程分からなくなるわ。


「ハイドちゃーん、開けてぇ」

「はいはい、ありがと。ヘレナ」

「んーん。うふふ、ぐっすりね。ツバサちゃん」


賄い料理と飲み物を乗せたトレイを持つヘレナの声に扉を開いて招けばいつもの笑顔が見えた。


「んーーぅ…」

「声で起きちゃいそうねー。ふふっ、寝顔可愛い♡」


楽しそうにクスクスと笑って出ていくヘレナを見送って椅子に座り直し食べ損ねていた賄いに手を付けた。今日の賄いはツバサちゃん達と同じ雑食ヤギのトマト煮込みとヘレナお手製のパンだった。


雑食ヤギ料理はとってもおいしいんだけど雑食ヤギが出没した時の被害の大きさから注文が入る事は少ないのよね。特に戦う術を持たない一般の人や低ランクの冒険者には恐怖の対象でしかないから受けない。

被害は確かに大きいけどコツさえ知っていれば何でもないのに皆損してるわ。

逆に一度食べると癖になってリピーターになる人も多い。けれど少数だから残っちゃうのよね。


遅めの昼食を終えて余った休憩の使い道として昨日使って手入れを忘れて居た剣の手入れをし始めてしばらく。可愛い仔猫達が揃って伸びをして飛び起きるのが見えた。


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『一緒に居ると似るものなのね』


アーデルハイド語り少し苦戦しましたw

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