おもてなしと危険なヤギ

「ちょっと時間がずれてて良かった。ピーク時だともっとお客多いしハイドもつかまらないの」


「ここってホールはあの人だけなんですか?だとしたらちょっと無理が有るんじゃ…」


「夜は流石にほとんどの席埋まるらしいし一応他にも何人か居るみたいよ?アタシもまだ全員は見てないけどね」


流石にそこまでではないらしい。そりゃそうだよな。ここテーブルだけでも10くらいあるしカウンター席も同じくらいは有る。あまり待たせる事になるのも良くないだろう。

特にこの世界は当たり前に武器や魔法が有る世界だ。短気な馬鹿とかが暴れたりもあるかもしれない。ハイドさんも戦えそうな感じするし。


数分後両手にお皿を持ったハイドさんと、ハイドさんの側に居るからなのかとても小さく見える女の人がお皿とトレイを持ってやって来た。


「お待たせしましたー。雑食ヤギのステーキとトマト煮込み、猫ちゃん用の回転魚のお刺身とムニエル出来たわよー」


「いらっしゃいませ。小さなネコちゃんが居ると聞いたのでネコちゃんが遠慮せず食べられるようにこちらどうぞぉ」


小さな女の人はギャルソン風エプロンに可愛い花柄のワンピース。ふわふわで薄ピンクの髪をサイドで結んだいかにも女の子!って感じの人だ。その人が差し出してくれたトレイには水の入った小皿と魚料理2品、チビが座れるようにか小さな座布団のような物が乗っていた。

え、おもてなし完璧過ぎじゃね?思わず脳内に滝○クリ○テルの言葉が思い浮かんだ。 一時期流行ったあれだ。


「あ、ありがとうございます。わざわざすいません」


「うふふ、ネコちゃんも落ち着いて食べたいものね。お水のお皿大きかったかしら」


受け取って机に置いてやると身軽に肩から飛び降りたチビが座布団に座って水を飲み始めた。確かにチビには大きいかもしれないが浅い皿の為飲みにくくはなさそうだ。


「大丈夫そうです。ありがとうございます」


「ヘレナ厨房を離れて大丈夫なの?」


「もう注文待ちの人も居なくなったから大丈夫なの。ハイドちゃんから可愛いネコさんって聞いたから出てきちゃった」


そう言ってニコニコと楽しそうに笑って何故かオレの隣に彼女が座った。

隣を見て気付いたけど、この人オレと同じ獣人だ。ピンクの尻尾あるし、耳も同じ感じだし。でも手は人の手っぽい。年の差か?


「冷めちゃう前にお食べなさいな。ヘレナ、アタシ片付けてお皿洗っとくわよ?」


「はぁい。まかない作ってあるから食べちゃってー」


「じゃあいただきまーす。んー、ステーキおいしー」


「いただきます…うわ、うっま。ヤギうま…」


雑食ヤギのステーキって置かれた分をレサさんに倣って食べてみる。多分焼いてお手製のタレでも掛けてあるんだろうけどシンプルだからこそごまかしは効かないって分かる。

肉自体凄く柔いんだけど程々に弾力もあってジューシーだし旨い。ただのヤギじゃなく雑食ヤギって言われてるのは気になるけど安い牛とかよりよっぽど旨いから気にしない事にした。


「雑食ヤギって討伐は大変だけどおいしいのよね。昨日入ったとこだからレサちゃん良い時だったわねー」


オレ達のコメントにヘレナさんもニコニコ笑って嬉しそうに言う。ただ、なんか変だ。ヤギって討伐するもんだっけ?牧場とか山に居て草食べてるだけじゃないっけ?


「昨日街で騒ぎになってたのってこれだったのね。被害は大きかったの?」


「うちの裏の裏にブレンダさんのコッコ小屋があったじゃない?小屋を食べられちゃってねぇ、怯えたコッコみーんな逃げちゃって」


「小屋?小屋食うヤギ?え、おかしくね?」


「ざっしょくヤギはこやもいえもにんげんもくうニャ」


ヤギのくせにヤバイ。家って事は石も下手したら鉄も食う。人間もってことは普通に生き物も食うって訳で…


「質量保存の法則どこ行った。それにどんな歯と胃袋してんだよ…」


「胃袋は異次元じゃないかと言われてるわね。空腹時は際限なく何でも食べるからツバサは出会ったら逃げた方が良いと思う」


道理で討伐とか言われる訳だ。そんなやつ街に出たら食い放題だし危なくて仕方ない。

ていうかそんな危険な生き物街に簡単に入れるなと言いたい。この街の治安とかどうなってるんだろう…。まぁ、そのお陰で今ヤギ肉食えてる訳だけど。トマト煮込みの方も多分ヤギ使われててヤギ肉にトマトの味が良く染み込んでて旨い。


「誰か冒険者が駆け付けてくれたの?」


「常連さんのトトさんが言いに来てくれてね、丁度切らしてたからハイドちゃんが討伐に行ってくれたのー」


「だからここに入った訳ね」


やっぱりハイドさんは戦えるらしい。ちょっと喧嘩の仲裁くらいの戦闘力かな、と思ってたけどこれガチなヤツっぽい。けど変だな。多分そういう戦う人の方がリスクがある分身入りは良いだろうになんで飲食店の店員してるんだろう。


実は戦いで大怪我でもして後遺症があるからハードな戦いが出来ないとか?

そんな事を思いながら何となくカウンターを見てみると丁度皿洗いを始めたらしいハイドさんと目が合って笑顔で手を振られた。 振り返したりしないけど。


「あふ…」


なんか食ったら眠くなって来た。いやでも食ったら眠くなるとかそんな子供みたいなのはみっともない。そうは思うけど自然と出る欠伸はどうしようもなかった。

でもご飯はうまい…


「眠いなら無理しなくていいのよ?起きたら食べれるように取っといてあげるから」


「眠くないから大丈夫…」


誰かが言ってくれるけどそんなのは申し訳ない。一人になった時に人の迷惑にならずに生きていこうと決めた。寮のおばさんに世話焼かれたりたつきと馬鹿やったりはしてたけど概ね達成出来てたつもりだ。


「迷惑掛けずに生きてかないと…」


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『だっていつか邪魔になってしまう』


個人的に雑食ヤギはお気に入り。雑食って便利な言葉です(笑)

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