お酒は大人になってから

「メニューお待たせェ。ツバサちゃん難しいお顔になってるわよ?」

「アンタのせいですけどね。はぁ、もういいや」

「なぁに?あ、そうそう。部屋だけど今ならほとんど空いてたわよ」


幸いうっかり漏れた言葉は聞こえなかったらしい。

メニューを渡しながら首を傾げられ何でもないと首を振るとレサさんに声を掛けた。

渡されたメニューを見るけど看板同様読める訳がない。字については勉強するしかないかもしれない。


「良かった。私が探してるわけじゃないけどね」

「ツバサちゃんも…あ、はーい!今伺いまーす。呼ばれたから行ってくるわ」


奥の席の親子連れのうち小さな女の子がハイちゃーんと呼びそれに答える。そしてオレの頭を撫でて名残惜しそうに離れて行った。あの親子も多分人じゃない。耳が人間と違って尖っている。まぁだからって何族か分からないけど。


「ツバサ、ジロジロ見ちゃ失礼よ。気持ちは分からなくもないけど。ほら、メニュー決めちゃいましょ。何が良い?」

「あ、すいません。レサさんのオススメで良いです。何が美味しいかも分かんないんで」


そもそもこの世界の食文化自体分からない。さっきクラブサンドってハイジの人が言っていたからパンらしい物は有るのだろうがトゲトゲ蟹?そんなのはオレの世界では聞いた事が無い。


「それもそっか。じゃあお肉、お魚、野菜ならどれが好き?」

「肉ですかね。別に好き嫌いないんで食えますけど」

「ニャーはサカナがいいニャ!」

「あ、ばっか!」


それまで肩でぬいぐるみと化していたチビが堪りかねてか顔を上げて主張したのに焦り慌てて肩から降ろして抱え込む。周りの人には気付かれなかったようだ。


「ニャーのこえはツバサいがいにはネコのなきごえにしかきこえニャーよ」


そもそもオレ専属ナビゲーターというか、そういうやつな為言葉はオレと神の使いである神官さんにのみ聞けるらしく他の人間にはネコの鳴き声にしか聞こえないんだとか。そういう事は先に言っとけよ。静かにしてるからしゃべったらまずいんだと勝手に思ってたし。


「ツバサどうかした?ネコちゃんにも食べたい物があった?」


膝に乗せたチビと話すオレにレサさんが気遣うように声を掛けてくれる。ほんとにチビの言葉は分からないみたいだ。


「魚料理も小さいやつで良いんで選んで貰えますか?人間と同じ物食って問題ないみたいです」

「猫人族だから言葉も分かるのね。ちょっと羨ましい」


そう言って微笑ましく笑われて少し気恥ずかしくなった。猫と話せるとか言葉にするとどんなメルヘン思考だろう。でもレサさんが純粋に羨ましいと言ってくれたので悪い気はしなかった。友人の樹だったら絶対馬鹿笑いするに決まってる。

でも気の良いアイツの事だから本気で言ったら多分信じてくれた。

チビの事はオレだけの特殊技能みたいなもんらしいから猫人族だからって事ではないけれどここで詳しく話す事でもないし今はそういうもんだとしとこうと思う。


「じゃあ私達は雑食ヤギのステーキとトマト煮込みにしてネコちゃんには何か旬の魚のお刺身でも作ってもらいましょ。飲み物は?水以外ほしい?」

「じゃあ酒…」

「こぉら、ツバサちゃん未成年でしょ。堂々とは飲ませないわよー」


またしても突然背後に現れ背中から回された腕に捕まった。声はしっかり男だし回された腕も鍛えたって感じにそこそこ逞しい。正直全然嬉しくない。女の人だったら嬉しいのかと聞かれるとまたそれも微妙だけど。

元々男同士馬鹿やってる方が好きで女の子と付き合った事も無くはなかったけど長続きしたことはなかった。なんか違うな、と漠然と思っただけだった。


そもそもあっちじゃ生きる事に必死すぎて時間に余裕なんてなくて付き合っても構ってくれない、ってすぐ振られたけど。

学校やバイトを頑張ってるオレが好きとか告白してきたくせに自分の為ならどうにか時間を作ってもらえるとか思ったんだろうか。そんな事したら学校通えなくなるし出来る訳がないのに。


「アーデルハイドさん…暑苦しいです」


「ハイドで良いわよ?あとアタシとしては普通に話してくれた方が嬉しいわね」


オレの訴えはオールスルーらしい…。オレ一応この人と初対面じゃなかったっけ?

後ろから椅子越しとはいえぬいぐるみのように抱きしめられ楽しいそうに頭を撫でられるけど、見た目はともかく中身はもう成人した男だ。男が男に抱き締められているとかカオスでしかない。


「……だっから、暑いって!くっついて来すぎ!ぬいぐるみじゃないからっ」


「そうそう。その方がツバサちゃんには似合ってるわ。メニューは決まった?」


いい加減イラッとして暴れると満足そうな声と共に開放される。多分ハイドさんもレサさんも元々20才だったオレより年上だとは思うけどなんか余裕有り過ぎ。オレの周りにはこんな落ち着いた奴は居なかったから調子が狂う。レサさんなんかオレとハイドさんのやり取りを楽しそうに見守ってたかと思ったら普通に注文してるし。

これはオレの方が子供っぽいんだろうか。まぁそれでも見た目を裏切って全く可愛げない性格をしている自覚はあるからまぁいいか。


「じゃぁオーダー通して来るわ。今ならすぐ出来るから少しだけ待っててちょうだい」


そう言ってテーブルに下ろしていた空のグラスや食器を結構積み上げたトレイみたいな物を持ってまたカウンターの方に戻って行った。

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『既に飲んでたのに身長が縮んだ弊害がここで出るとは思わなかった』


流石に某刀〇男子じゃないのでショタにお酒は抵抗がありました。今後

種族的なやつで飲ませてやれるかは未定です

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