奪われていた帰る場所

「称号の獣ってこのチビの事ですか」


「いいえ。この子含め全てと言った方が良いでしょう。純粋な獣も獣から転化した猫人族や犬人族の方々とも仲良くなり易い筈ですよ」


動物愛されスキルとかもらって何になるんだろう。アナコンダに締められても平気なあの人みたいに王国作れとか?作ってどうする…。とはいえ同種族とかにも好意的に応じてもらえるなら少し楽が出来るのかもしれない。

肩に乗って来たチビの重さとか感じるしもう夢説は詰んでしまった。

それならなんとかやっていくしかなさそうだ。神官さんがくれたジュースも普通にうまいし。


「ニャント、ツバサはぞくせいかいほうももってるニャ。すごいのニャー」


「属性開放?」


「魔法の特殊スキルの一つです。滅多に習得出来るものではありませんよ」


そう褒めてくれるが詳細はチビに聞くように言われてしまった。

ここからは神官さんからの説明らしい。



「まず、この世界は神様の実験場や箱庭と呼ばれている事はご存知ですか」


「レサさんに聞きました。不定期に試練を課せられた人が来るって」


「えぇ。実験所と言うと悪く聞こえるかもしれませんがそう言い始めたのはプレイヤーの方々です。試練内容は皆さんご存知ではないのですが漠然と自分達は神様に試されていると気付いた方々が居ました。でなければNPCと異なる優れた能力の納得がいかないとね」


オレの属性開放が多分そこに当て嵌まるんだろう。小説でよく居るって聞いたチート能力持ちの主人公のようだ。

けどだからって素直に踊ってやる必要もない筈だ。となると強制的に踊らされたんだろうか。


「初めは珍しかったものですからプレイヤーは注目されていましたのでNPCへもプレイヤーの考えはあっと言う間に広がりました。けれど、魔物の大量発生ですとかそう言った危険な事は然程ありませんでした。そうしてプレイヤーを通してこの世界は見守られた世界なのだと、神様の箱庭とも呼ばれるようになったんです」


「こっちはNPCから広がったんですね」


「そうです。プレイヤーは異世界から喚ばれます。当然ここにはない知識なども引き継いで。結果プレイヤーの働きでこの世界はこれまでに無い発展をする事も多かった」


帰れないなら自分の過ごしやすい環境が良いと思ったのかもしれない。ここに来るまでに見た町並みは確かに建物はまだ小さいけれど綺麗に道も整備されていて歩きやすかった。そして元の世界と同じように室内でも明るい。けど電線とかは見えなかったから地中に埋めてあるか魔法が使われてるのかもしれない。


「試練ってじゃあなんなんですか。終わったら帰れるとかは?」


「試練については神様から頂く情報にも記されていませんでした。これまでの方々に帰還したという方も居ないので元の世界には戻れないと思って頂く方が良いでしょう」


レサさんも言ってたがやっぱり帰れないらしい。かと言って別に絶望とかはない。

家族は既に居ないし、今は特定の彼女とかも居ない。一緒に呑んでた友人の樹−たつき−にはちょっと申し訳ない事をしたな、と思ったけど。

一緒に色々と馬鹿もやったしどっちかというとドライな性格のオレとよくダチやってくれたなと感心する。 多分オレが消えた事で相当心配してくれてるだろう。


「それで、オレは何をすれば良いんですか」


帰る場所はない。ここでやってくしか無いなら腹をくくるしかないだろう。

幸い金も貰ってるしスキルもそこそこの物が揃っててチビも居るならどうにかなると思った。


「プレイヤーだからといって私はあれこれ貴方に頼んだり制限を掛けるつもりはありません。私から貴方へのお願いは2つ。こちらの人達と楽しく笑って暮らして下さい。そして時々ここへもお祈りに来て下さい」


「へ?それだけ、ですか」


「私ともお話して頂けると嬉しいですね」


そう言って最初と変わらず毒のない笑顔で付け加えられた。なんというかこれeasyモード過ぎないか?けど肩に乗ったままのチビも頷いてるから深読みするのは止めた。

それでhardモードに変更されても困るしな。


「一気に言われても混乱するでしょうから今日はこれくらいにしましょう。気になる事が有れば私か導く者。またはレサさんに聞いて下さい。まずはゆっくりと休みその体に慣れる事をオススメします」


「あ、一つ良いですか」


「何でしょう」


「プレイヤーだって事はなるべく黙っておきたいのでただの移住者って事にしてくれますか。あまり目立ちたくないんで」


今のプレイヤーの位置付けがどうなってるのかとかそんなのはまだ後回しで良い。とりあえずしばらくは神官さんが言うようにゆっくりしたい。


「分かりました。NPCは許可なくプレイヤーのステータスの閲覧は出来ないようになっているのですぐには気づかれないと思います」


「そニャ。あとはツバサのえんぎしだいニャよ」


「ならなんとかなりそうっすね。とりあえず今日は泊まれるところを探す事にします」


なんにせよ一旦落ち着く場所を確保して色々考えたい。

平静を装ってはいるけど冷静ではないと思う。いきなり種族変えられるとか変なとこに落とされるとか普通起こると思わないし。


レサさんなら悪い人じゃないと思うしどこか紹介してもらうのもいいかもしれない。


「そうですね。いってらっしゃい、翼さん。」


「はい。また来ます。これ、ごちそうさまでした」


最後にそう挨拶して来た時と違い肩にチビを乗せ1人と1匹で教会を出た。


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『いってきます、って誰かに向けて言ったのはもうどれくらい前だろう』


1人と1匹って響きがなんとなくお気に入りです^^

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