師匠(仮)を探す村人
俺が登っている山には名は付いてないが、緑が深く、道に迷いやすい。そして、出没する魔物が強いことで有名だ。
だが、前情報では、その魔物は日没から活発に行動するというものだったのだが――
「何この、魔物の多さ。あの情報、デマだったのかよ」
俺の言っている通り、魔物とアホみたいにエンカウントする。まだ山に入って五分程度なのに、既に十回以上は、エンカウントしている。
「……言ったそばから、また出て来たよ」
俺を囲むよう出て来た魔物は、魔物図鑑によれば、名前はブラッディウルフ。体長は一メートルから一.五メートル、人間の血を好み、群れをなす狼型の魔物だ。
今回は十体の群れを成しており、鋭い眼光で俺を睨んでくる。が、今の俺にはただの経験値だ。
そう、“身体能力上昇”、“身体能力強化”、“各身体能力上昇系技能”、そして、“各身体能力強化系技能”を重複している俺ならな。
ちなみに、今俺は、全部で十六もの“技能”を重複している。というか、こうでもしないと俺が魔物の経験値になるわ。
やり過ぎだと思うけど、油断するとマジで死ぬから。嘘じゃないからな。……と来たな。
ブラッディウルフの群れが俺を襲う。
ただし、二体のみ。
俺はそれを後ろに飛ぶことで、躱す。
ブラッディウルフは見越していたかのように、先の二体とは違う個体が、両側から襲ってくる。
腰に提げている短剣を鞘から抜く。
右側のブラッディウルフの頭を突き刺す。
絶命。
左側のブラッディウルフはしゃがみ、回避。
前方と後方からブラッディウルフ。
短剣を頭から抜き、後方に逆手で一閃。
血が噴き出す。
前方は拳で脳天をかち割る。
粉砕。
ブラッディウルフは連携して攻撃してくる。ブラッディウルフには、意思疎通が出来る“技能”が備わっているらしい。
ブラッディウルフ一個体が見ているものを、群れ内で共有し、連携する。このことから、群れを成したブラッディウルフは、危険視されている。
しかし、視認出来なければ、その“技能”も役には立たない。
加速。
残像。
ブラッディウルフ反応せず。
短剣、振るう。
八閃。
ブラッディウルフ全滅。
「……ふぅ。やっぱりキツイわ。戦闘は出来るだけ避けていった方がいいな」
俺は短剣に付いた血を振るうことで落としてから、鞘に納めて、再び歩みを進める。“技能”は解除しない。その理由は簡単だ。“技能”は、発動し続けるより、発動時の方が魔力を消費するからだ。
それに、発動し続けていると“技能”のレベルが勝手に上がっていくからな。
取り敢えず何となくだが、上へ上へと登っている。が、一向に住処らしきものが見えてこない。
日は真上にあるから、まだ日没までは時間がある。だが、そろそろ決めないといけない。
このまま上を目指すか、横に移動するか。
山をどれくらい登ってきているのか分からない以上、体力的に、下手に横に移動するより上を目指した方がいいとは思うが……
だからと言って、上を目指した結果、何も無かったなんてことがあったら、大変だ。……何かあればいいんだが。
その時、水の音が聞こえてきた。そこで思った。山奥で暮らしているってことは、山をいちいち下り、水や食糧の買い出しをして、また登るなんてこと、めんどくさくてしないだろう。
だが、人間が生きる以上、水は欠かせない。つまり、水の確保が簡単な川の近くで暮らしているに違いないと。
そう推理した俺は、水の音の方向を確かめて、そっちの方へ歩みを進めた。
歩いてしばらくしたところに、小さな川があり、その川は下の方までずっと流れていた。
俺は辺りを見回して、住処らしきものがあるか確認していると、向こう岸にだが、木造の小屋を発見した。
幸い、川の幅は大したことなく、五歳でも跳べば届く距離だった為、軽く跳び越えることが出来た。
小屋の前まで来た俺は、ドアを数回ノックして、反応を待っていると、小屋の中からではなく、後ろから女性の声が聞こえた。
「こんなところで何してるの?」
『こんなところで何してるの?』は、そっちもでしょ? と思ったのだが、ここは異世界。女性がこんな魔物の多い山にいて、何ら不思議はない。
そう思い、俺は後ろに振り向きざまに、「人を探してるんです」と言おうとしたのだが、言葉に詰まる。
何故かって? 後ろにいた女性は物凄く美人で、手にバスケットを持っていて、武器など一つも持っていなかったからだ。
「?……どうしたの?」
「……あなたは一体何者なんですか? まさかあなたが、ロウガ・バーチェルさんですか!」
「違うわ。ロウガ・バーチェルは私のお父さんよ」
「おぉ……だからですか」
「だからですか?」
「いえいえ。あのロウガ・バーチェルさんの娘さんなら、この山の魔物くらい武器など持っていなくても、簡単に倒せて当然かなと思っただけです」
「私、魔物なんて倒せないわよ?」
「え? でも、ここまで無傷で……」
「それは、このお守りのお陰よ。このお守りは、魔物を寄せ付けないの」
懐から出したお守りを出したロウガさんの娘。
「……便利な物もあるんですね」
そう関心を抱いていたら……
「そんないい物でもないわよ? だって、魔物を寄せ付けないというのは、美化した言い方で、本当は魔物を押し付けてるだけだもん」
そんなことを言ってきた。つまり俺がアホみたいに魔物にエンカウントしたのは、このお守りのせいだと……
マジかよ。何してくれてんのさ。このお守り作った奴、バルス。
「君も持ってるのかと思った」
「……何で?」
「君みたいなちっちゃい子が、こんなところまで、来れるはずないもの」
……まぁ、うん。だろうな。そう思われるのも、仕方ないよな。俺、ちっちゃい子だもんな……
「お姉さん、名前は」
「セナだけど……どうしたの?」
名前を聞いた俺は、大きく息を吸って言った。
「セナさんの、バカーーーーーー!」
「バ、バカは君でしょ! そんな大きな声で言ったら……」
多数の足音が聞こえてきた。その足音は紛れもなく、俺たちの方へ近づいて来ている。
そして、百は超えている魔物の群れが、見え始めてきて――
「「キャーーーーーーーーーーーー!」」
二人で絶叫を上げた。
転生村人の異世界攻略 白兎 @re0subaru07
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