花食い

安良巻祐介

 

 花食いはその名の通り花を食って生きている。

 美しいものしか食わぬので骨身は軽く、また非常に残忍である。

 里を離れた自然の蔓草の牙城の中に棲み、闇が蜜の如く滴る夜には花弁の山の中で眠る。

 体色は常の人間と変わらぬが眸には花色の炎が宿り、すぐにそれとわかる。

 人語を解することなく、鳥の囀ずるような声のみを発し、花食い同士でも意味の通ずることはない。

 彼らは哲学者の言うところの完全なる個人である。孤独の虜囚であり、白痴の王である。

 彼らは、それゆえに、永遠に、幸福であった。

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花食い 安良巻祐介 @aramaki88

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