SLIMの成果


■ピンポイント着陸成功

 SLIMの目指したミッションのひとつ「ピンポイント着陸」は、わずか55メートルの誤差で成功しました。日常生活の感覚で言えば55メートルの誤差は大きいようにも思えますが、宇宙開発(というか天文学?)のスケールでは非常に小さいもので、実用化の目途が立ったともいえるでしょう。SF映画では、着陸とかドッキングとかの際には、目標がマーキングされている描写が多いですよね。「はやぶさ」の時も、タッチダウン前にターゲットマーカーを落として、それを目標にしていました。今回、SLIMではクレーターの位置をターゲットマーカー代わりに使用しています。搭載された画面で月面を撮影し、位置を決定するわけです。地球上ではGPSなどの測位衛星があるため、位置の判別にはあまり困りません。余談ですが、航空機にも地上を撮影した画像を元に飛行する航行方式が検討されていますが、メインで使うというより万が一GPSが使えなくなったときの手段ですね。地球上ではGPSの代替であっても、宇宙においては主役となる技術です。


■技術は積み重ねです

 今回の着陸では、誤差100メートル以内を目標にしていました。一時は目標から3~4mの範囲に迫っていました。着陸用エンジンの片方が脱落しなければ、数m以内の着陸が実現したかもしれません。トラブルが起きたにも関わらず、55mという誤差で着陸できたのは、SLIMの自律制御が優秀だったからでしょう。地球から月への通信には時間がかかるので、都度地球から月に指示を出していたのでは間に合いません。なので、宇宙機自身が判断して対処するようプログラミングされています。自律制御にしろ画像航法にしろ、一朝一夕でなしえたものではありません。「はやぶさ」もそうですが、それ以外にも数多くの工学実験の成果があってこそです。


■将来、どんな役に立つのか?

 では、ピンポイント着陸の技術は、なんの役に立つのでしょうか?

 今回のSLIMのようにピンポイントで観測地点に観測機を降ろすことができれば、着陸後に移動する必要がなくなります。それだけではなく将来の宇宙開発にとってピンポイント着陸は必須の技術なのです。天体上に基地を設置した後に物資を運搬する必要がありますが、荷物が届くたびに100キロも移動するはめになったら効率が悪いなんてもんじゃない、開発に膨大な時間がかかってしまいます。また、天体着陸だけでなく、トラブルを起こした人工衛星の修理に別の衛星を送り込んだり、宇宙デブリの回収にもピンポイント着陸と同じ技術の応用が期待できます。


■報道記者会見に思うこと

 ここからは少し蛇足。

 ここまで述べたようにSLIMのピンポイント着陸は、これからの宇宙開発を支える技術であり、その成功は誇るべきものだと思います。が、着陸後にJAXAが行った記者会見は、成功を喜んでいるようには見えませんでした。正常な着陸ではなかったから、とも言えますが、それ以前に行われたH3の(1回目の)記者会見が少しトラウマになっていて、発言が慎重になっていたのではないかと思います。私の考え過ぎならいいのですが。マスコミは、起きたことを正確に伝えてほしいものです。

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