姿勢制御のしくみ

 JAXAから、イプシロン6号機の失敗原因調査状況が公表されました。


イプシロンロケット6号機 打上げ失敗原因調査状況

https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/221018-mxt_uchukai01-000025514_1.pdf


 どうやら、2段目の姿勢制御用ガスジェット装置(RCS)が正常に動作しなかったようです。詳細な原因究明は、今後も継続して行われるでしょうし、その解説記事も出てくるでしょう。


 よい機会なので、ロケットがどうやって姿勢を制御しているのか、について紹介します。


 人間の場合、耳の奥にある三半規管と主に視覚情報から、姿勢がどのようになっているのかを判断し、身体を動かして制御しています。ロケットの場合、先ず自分がどのくらい傾いている(あるいは回転している)のかを「ジャイロスコープ(ジャイロセンサ)」で検知します。ジャイロスコープは、自転している物体の自転軸保存性――自転軸の方向を保とうとする、「ジャイロ効果」を利用した装置です。最近では余り見なりましたが、昔「地球ゴマ」という玩具がありましたが、あれはジャイロ効果を体験できる玩具でしたね。回転するコマは直立を続けるので、ロケットがどのような姿勢になっても直立したままですが、ロケットの内部から見るとコマが傾いて見えます。この傾きを計測すれば、ロケット自体の傾きが判るしかけです。自転軸をx、y、zの3軸方向に動けるようにしておけば、ロール、ピッチ、ヨーの量が判ります。

 昔のジャイロスコープはコマを使った機械式(TDG)でしたが、今は光学式のレーザージャイロ、光ファイバージャイロ(FOG)が主流です。光学式では光路(光を通過させる経路)を右回り/左回りの二つ用意します。ふたつの光を逆方向に回転させる、とも言えますね。その状態で角速度が加わると相対論的に左右の光路で差が生まれます(サニャック効果)。この差を周波数などから検知することで、機体に加わった角速度を算出します。

 光学式は機械式に比べて精度は落ちますが、駆動部分がないため故障しにくく、小型化も可能だからです。


 自分ロケットの傾きが判ったら、次に正しい姿勢にしなければなりません。いくつかの方法がありますが、イプシロンの場合、1段目には「TVC(Thrust Vector Control)」と「SMSJ(Solid Motor Side Jet)」が使われます。TVCは、ノズルの角度を変えることでピッチとヨーの動きを制御します。TVCだけではロール、つまりロケットの軸を中心にした回転は制御できないので、固体燃料を燃焼して回転を制御するSMSJが使われます。こうした技術がなかった頃には、固体燃料の形状で姿勢を制御しようという変態チックなことも行われていたようです。

 2段目には、ガスジェットによる「RCS(Reaction Control System)」と固体燃料を使った「スピンモータ」が搭載されています。今回は、RCSが不具合を起こしたようですね。


 姿勢制御は、ロケットだけでなく飛行機や人工衛星にとっても要となる技術です。特に宇宙開発においては、姿勢制御システムの小型化・軽量化は重要な技術なのです。

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