地球を護る!

「DARTミッション開始(NASA’s DART Mission Hits Asteroid in First-Ever Planetary Defense Test)」で紹介したDARTミッションが、当初の目的である小惑星激突を成功させました。


「NASA’s DART Mission Hits Asteroid in First-Ever Planetary Defense Test(https://www.nasa.gov/press-release/nasa-s-dart-mission-hits-asteroid-in-first-ever-planetary-defense-test)」


 上記のページにも表示される動画(静止画像を繋ぎ合わせたモノ)は、60年代のパニック映画を思い起こさせます。フィルムと違って、クローズアップは鮮明ですが。


 さて、DARTの目的は上記リンク先に“As a part of NASA’s overall planetary defense strategy, DART’s impact with the asteroid Dimorphos demonstrates a viable mitigation technique for protecting the planet from an Earth-bound asteroid or comet, if one were discovered.”とあるように、planetary defense、つまり「惑星防衛」です。映画で言えば「アルマゲドン」や「ディープインパクト」のように、地球に小惑星が激突するような事態から、地球を守るための技術を蓄積していこうということですね。

 小惑星が地球に激突なんて、小説や映画の中だけの話と思うのは間違いで、かつては小惑星の墜落によって恐竜が絶滅したと考えられていますし、ツングースカの謎の大爆発も大気圏に突入した小惑星によるものと考えられています。また、宇宙から地球に年間4トンもの物質が降り注いでいると言われています。たとえば、そのうちのひとつが、直径数メートル程度の小惑星だったとしても、人口密集地に激突すれば大きな被害が出てしまうでしょう。


 DARTが実証するのは、地球に接近する小惑星の軌道を衝撃で変えられるのか? というものです。実際の結果は、今後発表されるでしょうが、まず目標に到達できたことが素晴らしいことです。離れた場所の針穴に糸を通すようなものですよ、ほんと。


 ただし、DARTで軌道を変えることができたとしても、実際の惑星防衛に有効とは言えないでしょう。

 まず、地球に接近する小惑星を発見することが、第一のハードルとなります。発見が早ければ、小さな軌道変更でも地球激突を避けることができますが、発見が遅くなればなるほど、より大きなエネルギーをぶつけて大きく軌道を変えなければならなくなります。


 発見する技術が確立したとして、DARTのように宇宙船を飛ばしてぶつける方法は、制御が難しいでしょう。衝突するエネルギーは運動の第二法則、F=m質量a加速度で導き出されるので、より大きな宇宙船をより速い速度でぶつけるということになり、ターゲットに当てる難易度も高くなります。実際にやるとなれば、爆発物を搭載することになるでしょうが、核兵器は宇宙に運ぶだけでも(万が一の事故を考えると)難しいかも知れません。人類が滅亡するかもしれなければ別ですが。


 推進方式も問題になります。DARTではイオンエンジンが用いられました。イオンエンジンは小さい推進力を長時間維持することで徐々に速度を上げていく方式です。距離が長い方が速度は上がりますが、その分的に当てることが難しくなります。目標の近傍までは低速で、激突の直前に爆発的に推進力を発揮するような方式が理想的かもしれませんが、後方で爆発を起こして推進力を得るくらいしか思いつきません。爆発を起こすくらいなら、それを衝突時のエネルギーにした方が効率的でしょう。ふぅむ。


 衝突させる方向も、考えなければなりません。後方からの衝突は、(軌道を変えることができたとしても)目標の速度を上げることになりリスクがあります。真正面からだと速度を下げることはできますが、軌道を変えることはできません。つまり、前方斜め方向から上手く当てないといけないわけで、難易度が高いですね。


 では、ぶつけるのではなく、アクシズのように推進機を取り付けて軌道を変える方法はどうでしょう? NASAは以前、小惑星を地球近傍まで運んで資源にする計画を立案していましたから、技術的には可能なように思えます。問題は、目標の速度と残された時間でしょうね。目標に近付いて推進機を取り付けるためには、相手の速度に合わせて(相対速度をゼロ近くにして)ランデブーしなければなりません。そのためには、目標の後方から近付く必要がありますが、ものすごく時間がかかります。


 話は変わりますが、『銀河英雄伝説』の中で「アルテミスの首飾り」という、惑星ハイネセンを護る防衛兵器が登場します。目標を追い変えて軌道を変えるのではなく、近付く目標を待ち構えて迎撃する形ですね。これなら、時間も労力も少なくて済みます。ただし、目標が地球に近付く分、リスクは高くなってしまいます。

 また、アルテミスの首飾りは、軌道上に自動迎撃砲塔をずらっと並べる方式の惑星防衛システムですが、接近する小惑星を破壊できるようなビーム兵器は現実にはないので同じ方式はできませんね。

 ビームはなくても、レーザーならどうでしょう? アニメだと、レーザーやビームが当たった目標が爆散したりしますが、目標の小惑星内部に可燃性ガスが充満しているとか、爆発しやすい物質が含まれているとかでもない限り、爆発したりはしません。

 彗星のように氷とガスで出来ていれば、高出力のレーザーを目標の一部に当て続けることで、軌道を変えることができるかもしれません。目標が回転していると、難易度は上がってしまいますが。


 目標は小さく速いのに護るものは大きい惑星防衛プラネタリー・ディフェンスは非常に難しい技術ですが、DARTのようなチャレンジを積み重ねることで、何時の日か安心できるような盾を手に入れることができるでしょう。

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