原爆よりブラックホール
「インターステラー」「TENET」のクリストファー・ノーラン監督が、次にメガホンを取る(古い言い方w)作品が「オッペンハイマー」だそうです。原爆の父とも呼ばれる物理学者、ロバート・オッペンハイマーのお話だそうです。
オッペンハイマーは、アメリカの原爆開発プロジェクト「マンハッタン計画」に参加するまでは、ブラックホールの研究をしていたんですよ。自らの質量によって連続的に押し潰される現象「重力崩壊」を提唱したのは彼なんです。映画でもその辺、触れてくれると嬉しいなぁと思いますが、まぁ、ロスアラモス研究所の所長になってからの話になるでしょうね。
ブラックホールといえば、ブラックホールという言葉が生まれるよりも前、18世紀末にブラックホール同様の天体を考え付いた人がいました。フランスの数学者であり物理学者のピエール=シモン・ラプラスです。ラプラス変換などで有名ですが、ゲームなどの影響か「ラプラスの悪魔」なんて言葉の方がなじみ深い人もいるでしょう。
そのラプラスはニュートンの万有引力から、光も万有引力に影響されるのであれば、極めて大きな重力を持つ天体では、光すら重力を振り切ることができなくなるのではないかと考えました。そして、そのような天体では重力を振り切って宇宙に飛び出すのに必要な速度、すなわち脱出速度は光の速度と等しくなると考えました。まさしく、ブラックホールの概念に近いものといえるでしょう。しかし、残念なことにこのアイディアは発展することなく、忘れ去られてしまいました。
ブラックホールの概念が計算によって明らかにされたのは、アインシュタインが一般相対性理論を発表した後のことになります。ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルト(あるいはシュワルツシルト)が、一般相対性理論の方程式から天体が一つだけ存在するケースを計算したところ、光すら抜け出せなくなる面(三次元なので)が存在できることを見つけました。この特殊な解を「シュヴァルツシルト解」と言います。
また、重力が無限大になる点を「特異点」、光が脱出できない球形の表面を「
オッペンハイマーが重力崩壊を提唱した1939年から時が流れて1964年、ロイ・カーが角速度を持った解(カー解)を導き出します。角速度を持つ、つまり回転するブラックホールは、彼にちなんで「カー・ブラックホール」と呼ばれます。ちなみに、カー・ブラックホールの特異点は、点ではなくリンク状になります。回転するブラックホールが出てきたので、シュヴァルシルト解によるブラックホールは「静的ブラックホール」と呼ばれるようになりました。
今でこそブラックホールの認知度は、そこそこあると思いますが、1970年代中頃まではそうでもありませんでした。私の場合はSFにどっぷりつかっていたので、ブラックホールは当然あるものだと思っていましたが、研究者でもブラックホールは理論上の存在と考えていた人も多かったでしょうね。「ホワイトホール」とか「ワームホール」とか、ブラックホール研究から派生した言葉も、SFにはよく用いられています。どちらも理論上の存在なので、SFに興味のない人にとってはうさんくさい言葉に聞こえたかも。
それが、近年になって観測技術が発展したことにより、重力レンズ効果などブラックホールの存在を間接的に示す証拠も見つかり、そして1970年に見つかった「はくちょう座X-1」がブラックホールらしいことがわかって、知名度が一気に高まった印象があります。1979年には、その名も「ブラックホール」というタイトルの映画も公開されました。ディズニー映画ということで、私も劇場で観ましたが、まぁ……出来はなんというかアレです。ブラックホールの描写なら、「インターステラー」がリアリティ高いと評判です。
歴史にIFはありませんが、もしオッペンハイマーがマンハッタン計画に参加していなかったら、ブラックホールの研究はもっと進んでいたかもしれませんね。オッペンハイマー自身も、原爆を作ったことを後悔していたようですし、水爆にも反対していたので、誰かブラックホールを利用したタイムマシンを作って、過去に行ってオッペンハイマーを止めてあげてください。
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