航空機トリビア

 前々回、航空機の翼に関するエピソードを書いたので、その流れで今回は旅客機に関するトリビア的知識をいくつか紹介しようと思います。


 ……とその前に。私は「航空機」を「空を飛ぶ乗り物(輸送手段)」としています。動力の有り/無しは問いません。広義では、無人機も含まれます。「飛行機」と書いた場合には、航空機の中でも翼と胴体を持ったものを指します。飛行機の中でも、人を乗せて運ぶものが「旅客機」です。

 ただし、ヘリコプターは飛行機ではなく「回転翼機(回転翼航空機)」ですし、飛行船やグライダー(滑空機)も飛行機には含みません。飛翔体とミサイルみたいなもので、細かいルールではありますが、こうしておけば誤解が少なくて済みます。たぶん。



・「飛行機」という言葉は

  ――森鴎外が作った


 航空機と飛行機の違いは前段で語りましたが、では「飛行機」という言葉は誰が付けたのかというと、作家の森鴎外だと言われています。彼の「小倉日記」に出てくる飛行機という単語が、知られている中でもっとも古いそうです。

 飛行機を英語では「Airplane」というのに、と思うかも知れません。森鴎外は軍医としてドイツに留学していたことから、ドイツ語の「Flugzeug(フルークツォイク)」を訳したものと考えられます。Flugは英語でFlight、飛ぶとか飛行とか言う意味なので。しかし、英語のAirplaneも直訳すれば「空の板」ですからね。たしかにライト兄弟の時代のような平面翼であればピンと来ますが、それを知らなければなんのこっちゃでしょう。ちなみに、航空機は「Aircraft」ですね。



・セスナは小型機の総称

  ――ではなく企業名


 トリビアでもなんでもないことなんですが、なぜか世間一般では、小型航空機(軽飛行機)=セスナという認識が蔓延しています。確かに、セスナは小型航空機で大きなシェアを占めていますが、「セスナ社(セスナ・クラフト・カンパニー)」という会社のモデル名なのです。他にもビーチクラフトとかパイパーとか、小型航空機にもいろいろ種類があります。日本のSUBARU(旧、富士重工業)も小型航空機を製造しています。

 ちなみに、JAXAの実験用航空機の一機は、ドルニエ社の機体を改造したものですが、以前はビーチクラフト社の機体を使っていました。



・航空機の燃料は

  ――灯油


 ジェットエンジンに使われる燃料は、旅客機用や軍用機用などいろいろな規格がありますが、基本的には「灯油」が使われます。もちろん、ガソリンスタンドに売っているような灯油とは違って、水や不純物を取り除き、凍結防止剤などを添加したものです。整備士さんはもちろんですが、航空関係(特に推進系)の研究者も灯油を扱う資格を持っている人が多いですね。



・飛行機のタイヤには

  ――窒素が入っている


 自動車のタイヤには空気が充填されますが、航空機のタイヤには窒素が充填されています。窒素を使う理由はいくつかあります。不活性ガスである窒素は、他の材料を劣化させない、つまりゴムを酸化させないのでタイヤが長持ちします。また、タイヤは離着陸時に高温となるため酸素が含まれていると火災や爆発してしまう可能性があります。また、窒素ガスは水分を除去しているので、高空で凍結する可能性も小さいのです。

 最近では、自動車のタイヤにも窒素を使うことがあるようですね。



・航空機は冬でも

  ――スタッドレスタイヤにはしない


 というか、航空機用のスタッドレスタイヤはありません。そのため、雪や氷でスリップする可能性があり(スリップ事故も起きてます)、滑走路に雪が一定以上積もったら、滑走路を封鎖して除雪します。できるだけ短時間で除雪しなければならないので、大きな空港では数台の重機が並んで除雪する姿を見ることが出来るかも知れません。

 除雪するかどうかは、空港ごとに判断しますが、その指標の一つが滑走路の摩擦を計測することで、実際にタイヤを転がして摩擦を測る特殊な車両を使います。結構、アナログ。その上、計測時にも滑走路を閉じなければならないので非効率です。

 現在、JAXAが滑走路に埋設する形の雪氷モニタリングセンサーを研究・開発中です。実用化されれば、効率的に積雪状態を判断できるようになります。



・飛行機は自力で

  ――バックできない


 これは知っている人も多いでしょう。飛行機のタイヤには駆動装置は付いていません。前進する場合には、ジェットエンジンやプロペラといった推進装置を使うことができますが、後退はできないのです。そのため、飛行機の移動には、トーイングカーという車両が使われます。トーイングカーは、とても車高が低く作られています。



・旅客機の塗装、白が多いのは

  ――温度上昇を防ぐため


 ジェット旅客機の塗装は、白を基調にしたものが多くみられます。巡航時、雲の上を飛行する旅客機は太陽光に直接晒されます。機体を白く塗装するのは、機内の温度が上昇することを防ぐためです。機械設計において熱設計は重要ですが、特に旅客機は密閉空間に人間を乗せて長時間移動するわけですから、内部の温度が上昇しないように(しかもコストを掛けずに)工夫しなければなりません。また、金属は熱によって膨張しますから、変形しすぎないように温度を制御することも求められます。そのため、太陽光を反射する白い塗装が用いられているのです。

 一方で、機体を塗装すると塗料の分だけ重くなります。昔は、少しでも軽くするため機体の下半分は塗装しない、つまり白と銀のツートンカラー機体を良く見かけました。



・旅客機が高く飛ぶのは

  ――抵抗を考慮して


 前の項目でジェット旅客機が巡航時に雲の上を飛ぶと書きましたが、その高度はおよそ一万メートル、高度十キロです。わざわざこの高度を飛行するのには理由があって、一番大きな要因は空気抵抗です。一万メートル上空であれば、地上近くよりも空気の抵抗が少なく、その分燃費も良くなります。一方、それ以上高くなると、今度はジェットエンジンに必要な空気そのものが薄くなりすぎて、エンジンの効率が悪くなってしまうのです。



・夜の離着陸時に消灯するのは

  ――事故が発生した時のため


 夜間、離着陸する旅客機では、機内の照明が消されます。真っ暗になって不安という人もいるかも知れませんが、これは万が一を考えての処置です。たとえば、上手く離陸できずに墜落した場合、人間(乗客乗員)の目が暗さに慣れていれば、脱出も楽になります。このように暗さに慣れる人間の反応を、「暗順応」と言います。反対に明るさに慣れるのは「明順応」と呼ばれます。



・左側から乗り降りするのは

  ――昔からの慣習


 航空機の発着場を空港エアポートというように、航空機は船の慣習を踏襲している例が多くあります。機体の左側から客を乗降させるのもその一例で、かつて帆船の舵が右側に張り出していたことから自然と左舷から乗り降りしていた慣習が受け継がれているのです。旅客機は右側にもドアがありますが、基本的に右舷ドアは緊急時やメンテナンスなどにしか使われません。ドアの仕様は左右同じなので、乗り降りで使えないわけじゃありません。ボーディングブリッジなどが対応していれば、右側ドアを使うことも可能です。

 船と違うのは、荷物の搬入・搬出でしょう。多くの場合、右舷から行われます。これは時間短縮のためですね。同じ側面だと同時に作業しずらいので。



 以上、小ネタ集でした。



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