新幹線のノーズはなぜ長い?
“♪時速二百五十キロ~”
1964年に登場した新幹線。0系の丸みを帯びた先頭車両は、当時の子供たちにとってとても愛着のある車両です。しかし、その後新幹線の走行速度アップに伴って、先端はどんどん長くなっています。先日、JR東日本がお披露目した新型の新幹線車両ALFA-Xに至っては、ノーズ(先頭部分)の長さが約二十二メートルもあるそうです。
なぜこんなに長いノーズが必要になるのかといえば、トンネル突入時に発生する圧力波の影響を減らすためです。トンネルに新幹線が高速で突入するとき、新幹線の車体にトンネル内の空気が圧縮され圧力波(圧縮波)が発生します。トンネル出口では、膨張波が発生します。新幹線に乗っているとき、耳がツンとして痛くなる原因です。圧力波の影響で抵抗が大きくなるため、速度低下の原因にもなりますし、消費電力も大きくなります。さらに、トンネル出口ではトンネル微気圧波による低周波の大きな音が発生します。
こうした問題に対処した車両が、500系新幹線です。それまでの0系、100系、300系と大きくことなるのは、先頭車両の断面が円形になっている点です。細い釣り鐘型形状は、カワセミのくちばしを参考にして作られたものです。カワセミは、水中へダイブして小魚を捕食します。そのくちばしは、水の抵抗を受けにくいように進化したものと考えられます。実際に、500系ではトンネル突入時の抵抗が少なくなっています。
このように生物の持つ形状や構造、生態を工業に応用することを「生物模倣」(生体模倣とも)と言います。英語では、バイオミメティクス、あるいはバイオミミクリーなどと呼ばれています。RPGに登場するミミックと同じく、「まねる」という意味の“mimic”に由来します。
500系新幹線では、先頭車両だけでなくパンタグラフも生物模倣を応用した技術が反映されています。音を立てずに飛行するフクロウの風切り羽を参考に、パンタグラフの支柱には凹凸が付けられています。これによって、騒音が30%減ったそうです。また、付け根部分の形状は、アデリーペンギンを参考にしています。
※圧力波を低減する500系先頭車両の形状に関しては、下記URLが参考になります。
https://www.rtri.or.jp/rd/division/rd51/rd5120/rd51200101.html
https://www.birdfan.net/fun/etc/shinkansen/
新幹線以外にも、さまざまな技術に生物模倣が適用されています。有名なところでは、巨大なシールドマシンによって掘削しながらトンネルを作っていく「シールド工法j」は、木の中を食い荒らすフナクイムシを参考にしています。宇宙服の着脱にも使われている「マジックテープ(面ファスナー)」は、オナモミという植物の実が持つフック形状を参考にしています。軽くて丈夫な「ハニカム構造」は、その名前の示す通り、
その他にも、カタツムリの殻を参考にした防汚タイル、モルフォ蝶の翅を模した発色繊維、ハスの葉の表面構造を参考にした撥水加工、蚊を参考にした無痛針など枚挙に暇がありません。
生物模倣といえば、航空機の話は外せないでしょう。そもそも、空飛ぶ鳥に憧れて、人類は航空機を開発したのですから。現在主流となっている、いわゆるTube & Wing(筒と翼)は、鳥を模したものと言えますし、尾翼や三角翼も鳥のデザインが参考になっていると言われています。また、最近の航空機では、主翼の端に「ウィングレット」と呼ばれる部品が付けられていますが、あれは翼端渦(翼の端で発生する渦)の発生を上方にずらすことで抵抗を減らす効果がありますが、これは丹頂鶴の翼を模倣したものです。
さらに、サメの肌を模倣して表面の抵抗を減らす研究も進められています。昔から、鮫肌の表面構造──リブレットが抵抗を減らすことは知られていて、水着にも応用されています。ヨーロッパでは、リブレット構造を持つテープを飛行機の機体に貼り付けた試験が行われ、抵抗を減らす効果が確認されています。日本でも、JAXAがメーカーと共同で、塗料によってリブレットを作る研究を行っており、こちらも飛行実証試験で効果が確認されています。
長い時間をかけて進化してきた生物のデザインは、人類の科学技術にとって重要なお手本なのです。もしかすると、生物学と工学が融合する未来も、そう遠くないのかもしれません。
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