スウィング、スウィング。

 「はやぶさ2」の話題を出したので、以前から書こうと思っていた「スウィングバイ(スイングバイ)」について説明したいと思います。


 簡単に言えば、スウィングバイとは天体の重力を利用して、探査機(宇宙機)の速度を加速したり減速したりする宇宙航法のことです。まずは、天体が静止した状態(天体を中心に固定した系)を考えてみましょう。太陽のような恒星やブラックホールを考えれば、イメージしやすいでしょう。実際には、恒星もブラックホールもより大きな系で見れば移動しているのですが、ここでは考えないことにします。さて、天体は、質量に応じた引力を持っています。探査機が天体の近傍を通過する際、距離の二乗に反比例して引力の影響を受け、軌道が曲げられて双曲線を描きます。軌道上を進む探査機は、天体に近付くにつれて引力が強くなり速度が上がります。天体に向かっていくとも言えますね。その後、探査機が双曲線の頂点を超えると、今度は引っ張られる方向に引力が働くため、探査機は減速します。つまり、加速と減速が相殺されるため、軌道の方向は変化しますが速度は変化しません。銀河英雄伝説で、シュタインメッツがヤン艦隊から逃れるためにブラックホールを利用してスウィングバイしますが、侵入点とは反対の双曲線軌道上で待ち伏せすれば、シュタインメッツを全滅させられたはずです。ちなみに、スウィングバイを行っている際に、エンジンや推進剤などによって探査機自身も加速を行う場合を、パワードスウィングバイと言います。


 あれ? 速度が変わらないのであれば、スウィングバイをする必要がないのでは? と思うかもしれませんが、ここまでに考えてきたのは天体が静止している状態です。天体と言っても恒星の周囲を公転している惑星を利用するスウィングバイであれば話は別です。


 天体が動いている場合、探査機が元々持っているベクトルと天体が持つ公転方向へのベクトルの合成ベクトルが実際に進むベクトルになります。天体の公転方向とは逆の方向に進む軌道、天体の後方をかすめるような軌道でのスウィングバイでは、双曲線の出口側ではふたつのベクトルが重なることで、探査機は加速します。天体の前方を通過するスウィングバイでは、逆にベクトルが打ち消しあって減速することになります。惑星探査機などは、自前の推進力だけでなくスウィングバイを利用することで、効率よく宇宙を進んでいるわけです。


 スウィングバイは、探査機と天体が運動エネルギーのやり取りをしているとも考えられます。探査機が加速する場合には天体→探査機に、減速する場合は、探査機→天体に運動エネルギーが移っているのですが、探査機に比べて天体の質量が圧倒的に大きいので、探査機がスウィングバイしても天体にとっては問題にもなりません。SF小説の中には、こうした運動エネルギーのやり取りを利用して、惑星の軌道を変化させるというアイディアを使ったものもあります。タイトルは忘れましたが、そこでは異星人が恒星と惑星の間で小惑星をグルグル周回させて軌道を変化させたという描写がありました。どんだけ時間が掛かるんだよ、というくらい遠大な方法ですね>スウィングバイで天体移動。


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