やっかいな慣性

 SF作品において、この世の中の物理法則は意外にやっかいなものです。特に「慣性」は当たり前の現象だけれど、ちゃんと描写しないと嘘になるし、いろいろと制約をかけてくる厄介者です。


 慣性とは、「物体が外力を受けていない時、その物体の運動状態は慣性系に対して変化しない」というものです。簡単に言い直すと「物体が静止している時は力を加えられない限り静止し続けようとするし、動いている時にも力を加えない限り同じ動きを続けようとする」というものです。慣性系というか「系」という概念も、あまり一般的ではないのでいずれ説明しないといけないかな。


 それはさておき、日常でも慣性はしょっちゅう体感します。たとえば、乗っている電車がホームに近づきブレーキを掛けると、乗客の身体は進行方向に向かって倒れるような力を感じます。これは、電車と同じ速度で運動していた乗客の身体が、同じ運動を続けようとした結果です。

 宇宙でも、同じように慣性は働きますが、重力が小さい分、慣性の影響は大きくなります。そうですね、宇宙船が進むところを考えてみましょう。等速度で進んでいる宇宙船が、進行方向に対して90度の位置にある天体に行きたいと思ったとき、船体の方向を90度変えて加速する……という方法では、目的地に辿り着くことができません。船体の向きを変えてもため、外から見ると船体を横にして進んでいるように見えます。そこで加速しても、目的の天体との角度はすでに90度以上になっています。こうした慣性を考慮して、ずっと手前から進行方向を少しずつ変化させていく必要があります。

 とまぁ、こうした描写を小説でやろうとすると、めんどくさいったらありゃしない。だから、慣性は判っているけど、わざわざ細かい描写はしないよ、ということになるでしょうね。小説のネタが慣性を利用したものは別ですが。


 あ、という手もあります。E.E.スミスの「レンズマン」シリーズに登場する無慣性航法とかね。

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