同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気という。Ⅷ
***
「あれ? ここは?」
「おっ、目が覚めた?」
言って僕はリクライニングをくるっと回転させて、後ろのベッドで寝かせていた棘を見た。
「ここ、直の部屋……」
ぽけっとしながら、棘は部屋を見渡す。
「まだ寝ぼけてる?」
言って僕は席を立って部屋の扉を開ける。
「待ってて。飲み物取ってくるから」
言い残して僕は部屋を出た。
あれからの事を話そう。
委員長に言われた「毒ヶ杜さんに気をつけて」の言葉。
その真意は分からないまま、委員長は棘が委員長の家で目を覚ましたら、また錯乱するかも知れないと言い出した。
委員長の家で、しかもその本人も居たんじゃ確かにそれも頷けると考えた僕は、それから棘をおぶって家まで帰った。
その後、一人でコンビニに向かって買い物も済ませた。
そして、委員長の家からの帰り際、委員長に一言こう言われた。
「さっき言ったプレゼントなんだけど、捨ててくれるとありがたい」
反応する間もなしにそれだけ言い残して、委員長は家に駆けて行ってしまった。
一体、どういう事なんだろう。
プレゼントは捨てて欲しいって。
それに棘には気をつけてってあれは豹変の事を言っているんだろうか?
結局、分からない事だらけのまま、帰宅したのだった。
僕はリビングに入るとキッチンに向かって冷蔵庫を開けて、コンビニで買った炭酸飲料とプリンを持って部屋に戻った。
「おまたせ」
言って部屋に入ると、棘は扉の前で立ち尽くして僕を凝視してくる。
「えっと、どうしたの?」
無言のまま反応をしてくれない。ずっと僕の顔を見ている。
「棘……さん?」
わけもわからずあどけてみる。
「直。今から何個か質問するから、正直に答えて」
物凄く無愛想にそう言って、棘の質問攻めが始まった。
一体、何事だ? いきなりでよく分からないけど下手な事してもいけないここは素直に答えよう。
「私達出かけたよね?」
「出かけた」
「コンビニだよね?」
「その通りであります」
「途中、桃園さんに会ったよね?」
「うん」
「そこから記憶がないんだけど、何があった?」
「棘が熱中症で倒れた」
「倒れた? 私が?」
「うん」
もちろんこれは嘘だ。どうしてもここだけは素直に答えられない。
棘、委員長の事見たら、豹変しちゃったんだよ~なんて言っても信じるわけない。
そこでその事自体を消し去った。なかった事にしたんだ。
委員長に出会って、そこで急に熱中症で倒れたという事に摩り替えた。
嘘も方便。これは仕方なくつく嘘だ。これが一番平和的な答えだ。
僕は誰にも傷ついて欲しくないんだ。その為の優しい嘘。
「じゃあここに運んだのも直?」
「そうだよ」
「ふ~ん」
なんですかその嘘をついてないか見定めるようなふ~んは。
「コンビニには言ったの?」
「うん。これが供物にございます姫」
言って僕は手に持っていた炭酸飲料とプリンを差し出した。
「あ~プリンだ!!」
プリンを見るや否や急に対応が変わる。
「棘さん、わかりやしぃ~」
プリンを自分の頭の上くらいに上げる。
「うるさい! いいから早くプリン頂戴」
もう完全にいつもの棘だった。
やっぱりこれでよかったんだ。
「欲しいなら取ってみな」
頭上に上げたプリンをフリフリ振って少し意地悪してみる。
「ぷぅ~意地悪ぅ」
可愛らしく頬を膨らませて、おこを主張する。
「……」
刹那、真顔になって僕を見る。
「棘さん?」
「直。あんまり意地悪すると……
「何を!?」
「ナニを(ぶりっ子)」
「すいませんでした」
すぐさまプリンを引き渡した。
棘の場合、本当にやりそうだから、余計に怖い。
「プリンゲット~」
言って嬉しそうにベッドの上に座ってプリンを頬張る。
「うんま~」
美味しそうにプリンを食べる棘の笑顔はプライスレス。
「あっ、聞く事まだあった」
口にプリンを入れて棘は言った。
「このベッド、私以外に誰かに使わせた?」
何その質問。
「変な事聞くな~棘が初めてに決まってるでしょ」
それを聞いた棘はその頬を赤に染めた。
「私が始めてって……えへっ初めてなんだって」
何か喜んでいた。
「喜んでくれるのは何よりだけど、その質問は何?」
「いや、違うの直の事を信じてないわけじゃないの。ただこの布団……」
そこで何故か間を開けて棘は言った。
「私じゃない女の匂いがする」
愛しの悪女さん 水無月二十日 @Minazuki0816
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