……官房長官と書いて人間兵器と読む

寒々とした暗い部屋の中、ロウソクっぽい照明の置かれた、マーブル模様のでっかい円卓をオッサンズ(2名)と囲む。

どちらも濃ゆいキャラしてるけど、強烈なのは魔王の方。


魔王が落ち着き払ったイケボで語りかけてくる。


「あちらに控えている、赤髪の少女。彼女により召喚された異国の戦士、それが、あなたというわけです」

「はあ……」


麻雀マット3枚ちょっとの距離を隔てて対面トイメンの魔王閣下、もとい国王陛下が事情を説明してくれる。

やや遠目&下から黄色い光を浴びているせいで、顔の陰が今日イチで大変なことになっている。

暗闇にボーッと浮かんでていいお顔ではない。


———階段をエーテルに引っ張られて登ったあと、この円卓の間に案内された。

途中3フロアくらいは通り過ぎたから、足を使わずに来れたのはほんとに良かった。

そして、広々とした部屋の真ん中に据えた円卓で、出迎えたのはコワモテ陛下と、『あらせられます』ってのたまってた筋肉紳士なスキンヘッド。

他にいっぱいいた連中は、それぞれ外せない仕事があるとかでここにはいない。


俺はフカフカの高そうな椅子に座ったが、案内してくれた少年少女は席に着かず、円卓の間の入り口ちかくに立っていた。

で、改めてお互いの紹介を終えて、陛下がこうなったいきさつを説明し終えたところ。


俺が間抜けた相槌を打つと、筋肉紳士が口を開いた。


「納得いかぬ、というご様子ですな」

「いえ、はい、大丈夫です」


やや頼りない俺の返答にも、紳士は穏やかな表情のまま頷く。

この人は宰相なんだっけか。

名前は、えーと、シュバ、シュタ、なんだったっけ。

それなり長かったってことは覚えてるんだけどな。


「左様ですか。ならば、本題に入りましょう」


筋肉宰相が切り出す。

続けて、俺の正面に座る国王陛下が、暗黒の微笑をこちらに繰り出してくる。

こうかはばつぐんだ!

主に胃と喉と心拍に。


「山田様」

「はい……」


俺は思わず居住まいを正す。なんだ。どんな無理難題が飛んでくるんだ。

俺、全然、『左様ですか』って心持ちではないのですが……!


「今我々は、非常に難しい局面を迎えています」


———はい。


「国内では若年層を中心とした少数過激な反体制派が破壊活動を企て」


———一昔前は日本ウチにもいた気がしますねえ。


「一部では移民に対する差別も根強く」


———はい。


「北の国境を接する国とは領土問題があり」


———はい。


「東の国とは歴史認識で溝があり」


———はい。


「さらにかの国は新しい軍用技術の開発・試験を積極的に進め、我が国の安全保障を脅かしているとのこと」


———……はい。


「このような局面を打開すべく、ぜひあなたに政治顧問を務めていただきたいのです」


思った通り———! 

それ全部解決できたら俺我が国ニッポンの総理大臣になれるわ!


無茶振りったって振る相手と限度ってもんがある。

せいぜい俺ができるのって、官房長官スキル:必殺“遺憾の意”くらいだぞ。

俺がやったって何のメッセージにもならないぞ。


この面白そうな事態に興味はある。みすみす逃すのはものすごく惜しい。

ただ、そこで、世界救うとか政治顧問なんて大仕事やれと言われても。

戦士だなんだ言われたって、こちとら自分とこの企業戦士リーマンやるだけで手一杯な一般人すよ。

まず平日は現実むこうにいなきゃだし。


そーいう面倒なことは他の物好きゆうしゃを採用してやってもらうことにして、俺は(できればガイドをお供に)、来たい時に来て、適当にその辺観光したりとかってできないかなあ———。


「いささか役不足な感はありますが、お引き受けいただけますかな?」


頭の奥底まで響く陛下の声で、俺は目の前の現実(?)に引き戻される。

役不足とか言ってるけど、この俺の何を見抜けば、そこまで買い被れるのか不思議でならない。

俺が政治顧問やるんだったら、少なくとも『指クンッ!』で山ドッカーンできる程度の能力は欲しい。

そういう官房長官(人間兵器)でありたい。


残念ながら、そういった未知なるパワーに目覚めた覚えがない以上、機智叡智を駆使してなんやかんやするくらいしかない。

んなもん目の前のオッサンズの方がよっぽど手練れてるだろう。

今の話だって、王様が俺を煽って火中の栗を拾わせようとしているようにしか聞こえないし。

煽り方すごい雑だけど。


うーむ。

どうすれば対面の国王ラスボス相手に、こっちに都合良い話へ持っていけるだろか……。

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