chapter1-10 「その血の味」
「――ん……うん……」
創の頭上には見たことのある天井が広がっていた。それは数日前に見たティアラの家の天井だった。
創は今回は自らこの世界に来ることを望んだ。だから今回はこの世界に来て後悔はしていない。恐らくこの世界に来るかもしれないと思い、創は予め母親に友達の家に泊まりに行く、と昨日の内に伝えていた。親には心配かけたくはないのだ。
「――あらぁ? ハジメ君?」
「あ、ティアラのお母さん」
声を掛けて来たのはティアラのお母さんだった。この間泊まった時にお世話になった。とてもおっとりとした性格をしている。
「びっくりしたわ~。外の草むしりをしてたら急に家の中にハジメ君がいるんだもの」
「す、すみませんっ! 別に何かを盗みに来たとかではないですからっ!」
普通に考えて僕は今よその家に不法侵入しているのと何ら変わりはない。誰もいなかった家にいきなり僕が現れれば、疑われても仕方がない。
「そんなの分かってるわよ。ティーちゃんに会いに来たんでしょ? でもごめんね。あの子さっきお仕事に行っちゃったのよ」
「そ、そうですか。すみません、勝手に上がりこんでしまって……」
「そんなのいいわよ。ところで、この間ティーちゃんがハジメ君のことを探してたわよ? 『ハジメがどこにもいない!』って」
ティアラが心配している様子が頭に浮かんだ。見ず知らずの僕をそこまで心配してくれるなんて、本当に種明さんみたいだ。彼女に会ったら怒られそうな気がしてきた。
「あ、あはは……。後で謝っておきますよ」
そして創は家を出ようとする。
「――ちょっと、何処に行くの? 少しゆっくりしていったら?」
「いえ、大丈夫です。そこの教会に行くだけなので」
そう言って創は家を出る。その際にティアラの母親は創のことを心配そうに両手を胸元で組んでいた。まるで自分の息子みたいだった。
(母さんも、あんな風に心配していたのかな……)
創の姉も行方不明になり、なおのこと創のことを心配しているのだろうと思った。
***
――創が教会に入ると、レインとその隣に騎士のような恰好をした男がいた。
「――あら、ハジメさん。おはようございます。何処にいらしてたのですか? ティアが心配していましたよ」
「すみません、少し野暮用があったので」
やっぱり、ティアラは村中探し回ったのだろう。本当に申し訳ないことをした。次からは事前に言っておかないと。
多分、二十四時間経たないと元の世界に戻れないのかもしれない。今までもそうだった。戻りたいと思っても戻ることは出来なかった。戻った時はいつも二十四時間後だった。そして恐らく時間軸も同じ。日付も変わっていたからだ。だから母さんに泊まりに行く、と言った。帰ってこられるのは一日後だと思ったから。じゃないと、また心配してしまうから。
「そうですか。何事もなくて良かったです」
「すみません、ご迷惑をおかけして。……えと、そちらの方は?」
創はレインに隣に立っている男性について尋ねた。
「この方は【
「よろしく」
「あ、どうも、初めまして。ハジメって言います」
ダークはガチガチの鎧で身を固め、背中には大きな剣を背負っていた。
「あの、誓騎士連盟というのは?」
「【誓騎士連盟】といのは、依頼を受けてそれを遂行する騎士たちのことです。簡単に言うと、町や村の住人を安全を守っている組織です」
そのレインの言葉に創は敏感に反応する。
「『住人の安全を守る』……ですか……」
そんなのがいたなら、何故あの時駆け付けて来なかった。この村に来れるんだったら、隣村にくらいすぐに来れるだろう。お前たちが来れば、助かる命もあったかもしれない。それなのにこんな平然と笑ってそこに立っているのが腹立たしい。
創は静かに、拳を力強く握った。
「それで、私に何か用でも?」
「……ハイドの居場所を知りませんか?」
「……ッ!」
レインは驚いたような反応をしていた。ダートも、創の言葉に眉をひそめる。
「……それを知って、どうするのです?」
「……殺します」
「お止め下さいっ! ハジメさんには無理です! 貴方も彼を見たでしょう!? その無謀はあなたの命に関わります! 前回はあれで済んだものの、次は本当に殺されるかもしれませんっ!」
「『あれで済んだ』? シスターであるあなたが、今の言葉をおっしゃるのですかっ! 僕は――」
その言葉の途中でいきなりダートが創の前に立ち、文字通り鎧で固められた鋼の拳が創の頬を歪ました。
「うぐっ!」
余りの予想外のことに創は倒れてしまう。それを見ていたレインは口を押える。
「……いい加減にしろよ。お前みたいな小僧が、ハイドをどうにか出来るとでも思っているのかっ! むやみに挑んだところで、殺されるのがオチだっ!」
創は今の衝撃で唇を切り、血が垂れていた。それを手で拭う。微かに舐めた血は、味が分からなかった。
「……そんなの、やってみなきゃ分からないじゃないですか」
本当は分かりきっている。レインさんとダートの言う通りだ。ハイドに挑んだところで、自分が勝つ姿を想像する方が難しい。それでもやらなければいけない。
「……お前、表に出ろ。決闘だ」
ダートが顎をクイッと動かし、創を外に出るよう促す。
「何……?」
「教えてやるよ。お前が、どれだけ身の程知らずなのかを」
鳥カゴからのゼロ通知 夜空アリス @alice-yozora
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