010.魔導騎士団第一兵団朝会

「おはよーございまーす!」

 キーンと反響する機械音で僕は叩き起こされた。

「うわっ」

 最初に飛び込んだ光景は病室に入りきらないおびただしい数の人。その顔の中に見覚えのある人は、一人たりとも見当たらない。

「クゥシ隊長、おはようございます」

 メガホンを持った、明るい茶の長い髪の女性が僕に問いかけて来た。

「おはようございます」

「おはようございます!」

 僕の言葉に声が統一して帰ってきた。よくよく見ると、集まる人達は皆姿勢が良い。……これはいったい何?

「さて今日の朝会ですが」

「朝会?」

「そうですよ隊長。もうエロ回は終わりです」

 所々で小さな笑いがこだまする。

 そう言えば僕もスミレも裸だったことに気付き、慌ただしく地面に落ちていた掛け布をスミレと僕に被せた。

 ふとスミレを見るが、この大声大衆に動じずぐっすりと眠っている。

「さてクゥシ隊長、本日の指揮をお願いしたいのですが」

「……何をすれば?」

 首をかしげると女性は笑う。

「簡単ですよ。『本日の指揮権を副隊長に委ねる!』と言えばいいんです」

 そう彼女は言う。

 きっとしっかりしている彼女が副隊長なんだろうけど……何の団体ですかこれ?とりあえず選択肢は1つしかない。

「本日の指揮権を副隊長に委ねる」

 僕が声を発すると、彼女はよく出来ましたと微笑み振り返る。

「先ほど指揮権を授かった副隊長のアドルである!魔導騎士団第一兵団の一員に本日の任務を下す!」

 士気が高まる、奮い立つような響く声。

 アドルは大声で吐き切った息をもう一度大きく吸う。

「任務は全班統一!クゥシ隊長に記憶を覚えさせること!以上!」

 アドルが言葉を告げ終えると、周りの団員が一斉に敬礼。それを見てアドルも敬礼し辺り一帯を見渡してから手を下ろす。団員も敬礼の手を下ろす。

 すべてを終えて満足気なアドルはこちらに振り返る。

「さてクゥシ隊長、これを見て何か思い出せましたか?」

 圧倒されて考えもしなかった。魔導騎士団第一兵団。クゥシ隊長という事は、この団体を纏める頂点にいたという事。団長のマクマから少し話は聞いていたけど、これ程の隊だったとは――。

「クゥシ隊長?」

 僕の表情が優れなかったのか、アドルが顔を覗き込んで来た。

「あ、ごめん。毎朝こんな凄い事してたんだなって……」

「その様子だと全然覚えていないみたいですね」

 アドルはそう笑う。なぜか分からないが、その笑いは伝染するように周りも沸々と笑い始める。この状況、何か様子がおかしい。

「え?何か可笑しい事でも言った?」

 僕の言葉に反応するように、次から次へと隠れ笑いが聞こえて来る。

「ええ。そうね、ダルク!説明よろしく」

 そうアドルが名前を呼ぶと、背の高い男が団体の先頭から一歩前に歩み出て来た。そしてダルクは右手を上げ、しっかり手を伸ばし息を吸った。

「隊長殿!我々、この様な朝会は隊に入って初めての事であります!」

 そう告げられた瞬間、病室内は爆発的な笑いに包まれた。

 今まで見せられて来たものは、完璧に構成された偽りだったのだ。

「……えぇっ⁉うっそぉ⁉」

 驚き響く声は、より一層病室内の笑いを強くするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無記憶の魔法兵士 @oren01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ