009.絶壁とピック

 スミレは僕の白の掛け布の中で、もぞもぞと動き始めた。布から覗かせるスミレの頭、そして耳。その耳は近くで見ると、カチューシャの作り物ではなく、本当に本物の獣の耳なのも分かる。そこはかとなく獣臭も漂わせてもいる。でもこう不定期に動く耳を見つめていると、どこか心が落ち着く。

 耳をの動きに注視していると、掛け布からスミレがひょいと顔をのぞかせた。彼女は嬉しそうに微笑んでくると、僕の身体を強く抱きしめて来た。

 そして僕の素肌の一部が、スミレの二部を感じ取ってしまう。

「スミレ?……どうして脱いだ?」

「御主人。遊ぼう?」

 囁くような弱い主張。しかしその言葉使いと表情は、強力なものだった。

「遊ぶって?」

「分かってるくせに」

 スミレはその場で体を起こす。駆け布がベッドから剥がれ落ち、スミレの全てがあらわになる。美しい白い肌、幼い体系とは裏腹な、そそられる息遣いと表情。僕のどこか落ち着いた感情はもうどこにもない。

 しかし行動に起こそうとする手前に、足の痛みが現実へと引きり戻しにかかってきた。

「スミレ、でも僕は足が動かせないんだ」

「そう。――じゃあ分かった」

 スミレは仰向けの僕に馬乗りになる。そしてすりすりと前進してくる。そして胸元まで上がってくると静止した。

「御主人はこの景色が好きだったよね」

 それは絶壁のローアングル。いや、こうして眺めると多少の膨らみもある。膨らみの先でスミレは頬を赤らめ不敵に笑ってる。

「――覚えてないな」

「嘘つき。ここはこんなにも反応してる」

 スミレは後ろにある、僕の絶壁に使う固いピックを取り出し、指で器用に遊び始める。

 スミレは……この子は、相当な手練れである。それは、僕のをどうすればどう反応するかを分かりきっている様だった。

 しかしスミレは手を止め、こちらを軽蔑するように笑う。

「あっちは後、こっちが先」

「っ――」

 馬乗りするスミレは僕の口を塞ぐ所まで登ってきた。

「遊び方は分かってるよね」

「……」

 はい。

 スミレがちに臨んだであろう夜遊び、いや、夜明け前遊びが僕の口から開始を告げたのだった。

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