008.告白
スミレが泣き続ける間、僕は必死に考える。彼女は何故泣くのか。普通に考えられる事と言えば、彼女が親族や親友といった近しい関係が一番しっくりする。
しかし、逆のパターンもある。肯定的な涙ではなく、否定的な涙。何か大事な約束事を彼女としていたりする。でも僕は忘れてしまった。よって無効!なんてなってしまったら、たまったもんじゃない。お金とかが関わって来るなら尚更だ。
「主人様とスミレはね、1年ぐらい前に会ったの」
スミレがうつ伏せの状態のまま話し始めた。
「スミレは、どこか知らない牢の中に閉じ込められ、実験を繰り返され、時には酷い事をされて生きていた。でもそんな日々の中で、突然クゥシはやってきた」
スミレが顔を起こし、涙笑いでこちらを見つめる。
「最初はね、また新しい虐めの人が来たのかと思った。けど、牢が開けられて、足枷が外されて、手錠が外されて、服を着させてもらったの。その時私は、嬉しいというか困惑していたと思う。状況を理解できていなかったから」
スミレは一呼吸を置いて、どこか遠くを見つめる。
「そしたらその後に、スミレの目の前で仲間内で揉めはじめて、結果的に私はクゥシについて行くことにしたの。その時スミレに言ってくれた事、覚えてないよね……」
僕の表情を見て悟ったのか、少し顔を重くする。と、思えば無理やり笑った表情を見せ付けてきた。
「……『今日から君はスミレだ!もちろん君の名前だ。とりあえず、今は何も考えずに僕に付いてきて欲しい。この国を出たらまた色々考えよう』って。それに対して私は、国を出て何をするのか聞いた。そしたら『結婚する』の一言だった」
とんでもないワードが出て来た。
「スミレは婚約者?」
僕がそう聞くと、スミレは嬉しそうに微笑み、僕のベッドのシーツの中へと潜り込む。照れ隠しかと思ったその行動は、途端に僕の目の前に顔を近づける大胆な行動に変わった。
「そう」
スミレの生易しい吐息がかかる。
「結婚の意味はその時は知らなかったけど、今はスミレを守る為に必要だったのは分かった。だから――」
スミレの丸い目が輝き、獣の耳は逆立つ。
「だから、結婚しよう。今度はスミレが御主人を守る」
それは結婚の意味を見事に間違えた、スミレなりの精一杯の告白だった。
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