嫁と兵士と

007.真夜中の涙

 あれから2週間、平和な日々が続いている。

 足の骨折もくっ付き始めていて、もう半月も安静にしていればリハビリを開始出来るだろうとのこと。これだけ治りが早いのも、医療技術と魔法技術が備わっているからこそ。ハドゲン先生は治りの速さ僕の潜在能力の高さだというが、先生の技術やノーラの回復魔法のおかげなのかもしれない。

「それにしても痛い」

 僕は槌で一定間隔で殴られるような脈打ちの足を見つめ、ため息をつく。

 現在は真夜中。もう2、3時間で日の出が拝めるといった所だ。

 たまに痛みにうなされて目を覚ます。そんな時は朝まで自分の事を考えてみたり、たまに見回りに来る看護婦さんに助けてもらったりしている。魔法が使えるノーラが見回りに来た時が一番の当たりで、彼女の治癒魔法はすぐに僕の痛みを和らげ、眠りに就くことが出来る。

「え?」

 病室の自動ドアが独りでに開き、閉まった。

 あの扉は熱感知の使用で、勝手に開く事なんてまずない。

「誰かいるの?」

 僕の吐いた言葉は、独り言で終わる。

 誤作動として終わらせればそれまでだけど、何だか不気味だ。

 ここは、僕の今いる場所は病院だ。そんな霊的な何か幾何学な事が起こる可能性も否定できない。

「はっ」

 と、今度は窓から見える森から鳥たちが、慌てた様子で夜空を飛び去って行った。

 驚きで心拍数が上がると、足の痛みが増す。しかし、痛みや起きた時間を恨んでいる余裕はなかった。

「ヒッ」

 自動で窓が勝手に開き、思わず変な声が出た。窓の手すりに鳥のような熱を持つ小動物はいない。

 窓奥に見える木々は、不気味に風に揺られている。と、間もなく部屋の明かりがつく。

「よっ、ご主人、久しぶり」

「うわっ!ビックリした……」

 声をかけて来たのは小さい子供だった。たぶん女の子。白い肌、紺色の髪、獣耳⁉

と思ったけカチューシャのようだ。……動いてますけど。

「どちら様で?」

 僕が恐る恐る聞くと、彼女は寂しそうな表情を見せた。

「スミレの事、覚えてない?よね……うん、知ってた」

 花ではなく、彼女の名前なのは分かった。

「スミレちゃんは――」

「スミレでいい」

「スミレは僕の記憶がないのをどこで知った?」

「隊長たちが会議で話した」

 という事は、軍に関係のある人になる。

「……本当に覚えてない?」

 スミレは今にも泣きだしそうな顔と思えば涙を流し始めた。彼女は必死に目から零れる涙を拭おうとするが、拭いきれず溢れてくる。

 僕にとっての彼女、スミレにとっての僕は何だったんだろうか。こんなに泣く彼女を見て、どうして僕は何も思わないのだろう。

「ごめん」

「いい。でも少しだけ待って」

 スミレは僕のベッドに顔を埋める。

 隙間から漏れる彼女の咽び泣く声に、何故かはわからないがつられるように僕も涙を流すのだった。

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