006 魔法兵団3騎士長

 気づけばあっと言う間に昼過ぎを迎えていた。

 決して昼過ぎまで寝て過ごした訳ではない。朝から簡単な健康診断と、前夜の出来事を大変叱られた訳であった。

 ハゲ先生からもノーラからも「ここはそんな淫らな場所や店ではない。病院だ」と強く言われた。そしてその行為の罰なのか、麻酔の切れた折れた足が尋常じゃなく痛む。痛いというか、高熱を放っているようで熱い。この痛みに夕方のまで薬だけで耐えないといけない。

 僕が足の痛みを和らげる体勢を試行錯誤していると、1人の客人が僕の部屋へと来た。

「どうですか。調子は」

 そう気さくに話しかけて来たのはハタだった。ハタは何か台車に大小複数の段ボールを持ってきて、壊れたドアからその大きな段ボールを器用に部屋に入れている。

「足が痛い」

「自業自得ですよ」

「僕はされるがままだったんだけど、それにしても何用で?」

 ハタは話しながら箱を1つ1つ開けていく。そして何かのパーツを丁寧に仕分けている。

「昨日直すって言いましたからね。少しドアと窓の修理に来ましたよ」

 そう言う割には、異様に道具が多い気がする。持ってきた窓もどこか変だ。

「ああ、これですか。せっかくドアを新しくするなら自動ドアにしようと思いまして」

「そんな、そこまでしなくても」

 ハタは俊敏に壊れた壁の形を整えたり、窓をはめ変えたりしていた。無駄のない動きは見ていて飽きない。

「そういえば、どこまで自分を理解できましたか?」

 自分の事について僕は、午前中に部屋の片づけでいたニオや、色々話に来たマクマから聞いている。

「えーっと、僕は『クゥシ』と言う名で、帝国魔法兵団の騎士団長……って本当?」

「間違いないですよ。私とクゥシ、それにニオを含めた3人が、マクマ団長率いる魔法兵団の3騎士長です。その他には?」

「ニオと24期兵の同期で、4年近くの長い付き合い」

「それは詳しくは知りませんが、少なくとも体で味わったでしょう。ついでに、私は19期で一番先輩で、団長は26期です」

 それは初耳だった。というか団長はそんな新入りで兵団長まで上り詰めた凄い人だったのか。まああの顔なら納得できる。

「団長って言うだけあって、すごい人なんだなマクマさん」

「クゥシが団長にさん付けすると気持ち悪いですね」

「僕も自分で言ってなんか違和感あった」

 妙な抵抗感があった。この抵抗感は記憶を探るにあたって使えるかも知れないと思った。

「僕は団長の事を何て?」

「マクマ!って呼び捨てでしたよ。上下関係なんて無いに等しかったですよ」

「ふーん」

 そう言われて否定的な感情が生まれるかと思ったら、案外そうでもない。何となくそんな気もした。

 ハタは自動ドアをあっと言う間に完成させ、動作の確認をしている。

「さて、ドアも窓も直しましたし、妻の元へと帰りますか」

「すっごいはやい」

「私の取り柄ですから」

 そうハタは誇らしげに話す。誇らしげだけどどことなく嬉しそうでもある。

「では最後に新しいクゥシの情報を1つ。あなたはかなりの女性とのヤリ手で、すでにも3人の妻がいる」

「知ってますごめんなさい」

 謝ったのは知っていることに対してではなく、僕の不甲斐無さに対してだ。

「……ニオからですね。でも私はあなたと奥さんのエピソードは本当に素晴らしいものだと思いますよ。異国の彼女との話なんか何度聞いても、あなたらしくて素敵だと思います」

 そこまで言われると、何があったのか気になる。もちろんどんな人なのかも気になっている。

「少し詳しく教えてよ」

「駄目です。聞かれた時に面倒くさいから帰り際に言ったんです。自力で思い出すか、他の人から聞いてください」

「えー」

「後、業務連絡ですが、あなたが記憶を無くしてこの病院にいる事は世間一般には教えません。教えると、我々帝国にとって相当な不利益だからです」

「はい」

「しかしあなたの部下達、クゥシ軍メンバーに言おうかどうしようかは迷ってますが、どうしますか?」

「話して大丈夫だと思う。それに別に世間に話しても……」

「それは絶対ダメです。我が国も、隣国も、敵対国も大混乱になる事が目に見えてますから。理由は教えない方があなたの為です」

 僕は話を聞き入れ、何も理解してないなりに頷く。でも深くは考えない。

「それでは、あなたの部下には今夜の集会にでも伝えておきます。では何かあればまた来ます」

 そう話すと自動ドアからハタが出て行った。

「色々思う事はあるけど、今は」

 僕は動かない足を見つめる。

 記憶なんて、これからどうにでもなる。今は足を治すことに集中しよう。

 足の治療まで後2時間弱。僕は目を瞑って足の暑さに耐え時が経つのを待つのだった。

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