005 セックスフレンド

 それはそれは快楽的な時間だった。人間、本能というか欲望は記憶がなくても身体的というか遺伝的というか何か言葉にできない何かが僕が生まれる前から覚えているのかもしれない。

 でもドタバタな出来事だらけで忘れていたが、冷静になって考えてみる。僕は奇跡的とまで言われた目覚めから半日、いや8時間ほどで性行為に及んでいるのだ。過程は全くもって不明だが、今こうして隣で裸の年上?の女性がいるという不可解な現状があるのだ。こんなあり得ない状況になる為には、僕の無の記憶内で少なくとも隣のニオと何かがあった訳で。

「そろそろ魔法が解けてきた?」

 そう話しかけて来たのは隣にいるニオだ。

「魔法?」

「そう。じゃあ私の事カワイイ?」

「えー可愛いんじゃない?」

 ニオとは目を合わせず、天井に吹きかけるように返した。

 そんな事を急に聞かれてもどう反応すればいい。恥ずかしい。

「その反応ならとっくに解けてるわね。解けてないなら私に襲ってくるもの」

 なんだその魔法。それってニオにとって需要があるのか?

「ほんとに何も覚えてないのね。それはそれで寂しいわね」

「それは僕もずっと思ってた。目覚めた時も、ハゲ先生との話でも、3人が押しかけて来た時も、周りは凄く楽げに見えて羨ましかった」

 僕に対しての問いかけも、僕ではない誰かとの出来事のを聞いてるよな感じだった。今落ち着いているからか尚更そう思い出せる。

「じゃあ私が昔クゥシから言われた事をそっくりそのまま返すわね。『今までの事なんて、これからの事で挽回すればいい。辛い過去なんてこれからの楽しい今を作って塗り替えればいい。塗り替えるくらい僕が協力する。だからもう泣くな』ってね」

 ニオはきっとその時の僕の声を真似たのだろう。自分がそんな捨て台詞を言っただなんて思うと鳥肌が立つ。

「中々恥ずかしいセリフだな」

「クゥシは恥ずかしげもなく言ってたけどね。それに、この言葉に私はどれだけ救われたか」

 ニオはどこか遠い過去を噛み締める様だった。

「僕とニオはそんな仲だったの?」

「そうよ。激しい時は3日に1回はヤリ合っていたわね」

「どんな仲だよ」

 僕の反応にニオは笑う。

 本当か冗談かはさておき、そんな頻繁な仲だったという思いと、僕の精力の強さに驚いた。

「ふふっ、まあ話のネタばらしをしてしまうと、私が魔法の扱いで落ちぶれてた時にクゥシが『その肉体は一部の人には需要があるから魅了でも覚えてみたら?』って言われて、マーコに基礎を教わって、それからクゥシが練習相手で最初はキスからだったけど、段々コツをつかんでエスカレートしていって気が付けば毎日実践練習してたわ」

 話からして今のベッドの現状は結局は過去の僕がソースになっていたわけだ。

「というか今、毎日って言った?3日に1回じゃなくて?」

「そうよ。おかけでほとんどの男はイチコロで落とせるようになったわ。それなのに」

 何かを言いかけて口ごもるニオ。

「それなのに?」

「この際だけど言ってもいいわよね?」

「どうぞ」

 そこまで言われたら聞かない方が後味が悪い。

「それなのに、クゥシは得意の能力で全く魅了が効かなくなって、それどころか私の魅了の魔力を吸収しすぎたのか周りの女の子にチヤホヤされて近づけなくなって、挙句の果てに婚約した⁉……ほんと、私を置いてけぼりにして、ムカつくわ」

 なんだかすごく悪いことした気になってきた。というか彼女にとっては最悪なことをしてきたのだろう。

「どうすれば許してくれる?」

「んー、私と結婚して。この際3人も4人も変わらないでしょ」

「そんな事言われても。って僕に嫁は何人いる?」

「私含めて4人」

「という事は3人なわけだ。って、ごめんごめん」

 ニオに頬を抓られた。

 一夫多妻は帝国民の男女比からして存在するのは知っている。でもそれは相当な経済力や地位がないと認められない。というか養いきれないから普通は1対1が当たり前なのだ。

「マクマとハタには?」

「1人ずつよ。当然でしょ。あなたがおかしいのよ!結婚を軽々しく思って!3人目なんて異国の子を連れ込んで来たんだから!」

「えぇっ……すいませんでした」

 流石に過去の自分に対して引いてしまう。今すぐ記憶取り戻してその時なぜそうなったのか問い質したい。

「だ・か・ら、3人も4人も一緒」

 上を向く僕の顔を、両手で無理やりニオの顔へと向けさせる。ニオのあがる吐息を顔全体で感じ取れる。

「今回はそれ以外で許して」

「じゃあ私が起きるまでギュッとしてて」

 この子も中々に恥ずかしい言葉を平気で伝えてくる。2人揃って顔真っ赤だけども。

「足が動かないので出来ないです」

「ならこうするわ!」

 ニオは僕の身体を優しく抱きしめて来た。僕はもうどうする事も出来ない。

「手だけでも欲しいなー」

 そんな蜜のような言葉に抵抗できるわけもなく、僕は無理やり体を捻り手を回す。顔も身体もこれだけ密着してると興奮の最中、安心感すら覚えてくる。

「クゥシ」

「何?」

「うん、何でもない。おやすみ」

「おやすみ」

 そう返すとニオは嬉しそうに微笑み、瞼を閉じた。

 今日1日で僕がどんな男なのか何となく見えて来た気がした。まだ不鮮明なところも多々あるが、少なくともニオとのとんでもない関係性は何となく理解できた。しかし本当にそうだったのだろうか。そんな事があっていいものだろうか。そして不安要素も多々ある。僕の地位や婚約者、それになぜ記憶を無くす事になったのかだ。そう、僕にはまだ知らなければならない出来事が多すぎる。

「寝て起きたら、全て思い出せない物だろうか」

 僕は1人呟く。すやすやと可愛らしい寝息が隣から聞こえる中、僕は複雑な心境で全く眠れる事無く夜間を過ごすのだった。

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