004 既婚者の不倫者

 ハタの持つモニターには僕の顔が映し出されている。正確には記憶にない僕であろう顔であるのだけども、問題は今はそこではない。

「これって、今この瞬間を映してるんだよね」

「そうです」

 僕の顔は少し正面から逸れた方を向いている。となると写し出の場所は、マクマの辺りになる。マクマをまじまじと見つめる。

 マクマ、相変わらず獅子の様な濃い顔つきにゴッツい身体。服も筋肉で張っている。

「あ、これだ」

 僕はマクマの服の装飾品を指さす。ガラスで精巧に作られたものだ。

「正解です。流石にモニターのリアルタイムは、ヒントになりすぎましたか」

 ハタは満足したのか、モニターを閉じて近くの棚の上に置いた。

「じゃあ、次の問題です。団長は何故こんな隠し撮りをしたのでしょう」

「いつの間に問題形式に?」

「別にいいじゃないですか」

 僕の問に、ハタは笑って返す。問題を出すことを楽しんでいるようだ。

「映像を残すため」

 ハタは首を横に振る。

「そういう問題ではないのです。動機です。動機」

 動機といわれましてもねぇ。団長のあの時の言葉選び、そしてこの3人の仲の良さを察するに、だろう。

「何かの罰ゲームとか?」

 この答えにハタは笑う。

「流石はクゥシ。そういう答えにまでたどり着くんですね。だけど根本的な動機ではないです」

「ちなみに罰ゲームの動機は、マクマ団長が私の10個限定のプリンを勝手に食べたのが動機よ」

 そうニオは上から話す。

「4つもあったじゃねぇか!」

「4つとも私のよ!」

 ニオとマクマは睨み合う。あんな顔のマクマと言い争えるニオって凄い。

「それはさておき」

 ハタは2人を手であおって仕切り直しにかかる。

 考え直すと、つまりは罰ゲームを起こした動機になるのか?いやでも罰ゲームはプリンの恨みの腹いせで。

「ヒントをあげましょうか」

「お願いします」

 僕は遠慮なんてせずに聞く。

「あなたが記憶に関する事です」

「うーん、過去にもこんな場面があったとか?」

「そんな事はない、と思ったけどありましたね」

「あの時は私だったわね。初めてのチャイナドレスだったわ」

 3人は笑う。僕は当然のように置いて行かれている。

「そんな事、覚えてないな」

 僕は少し嘆くように呟く。

「そうです!それです!覚えてない、です」

 ハタの強調した「覚えてない」という単語に、僕は一つの答えを思いつく。

「分かった。記憶を思い出させるためだ」

「正解!」

 そう元気よく返したのはニオで、何か嬉しかったのか僕に抱き着き、顔と顔を擦り付けて来た。

 僕はそんなニオを全く気にせず僕は聞く。

「じゃあ、あの団長の上司とか言う訳の分からないくだりも記憶の為?」

「そうだ」

 マクマが力強く頷く。

「扉や窓を壊して入ったのも?」

「間違いではないですね」

 ハタが頷く。

「小さい事を馬鹿にして、ニオがベッドの上で飛び乗って来たことも?」

「それは違う」

 マクマとハタは声を合わす。

「そうよ~」

 一人ねっとり肯定するニオ。どっちだよ。そうツッコミを入れようかとした時だった。

 先ほどまで顔との距離が零だったニオが、徐に僕の唇を奪いに来たのだ。唐突なキスである。しかも舌を入れてくるディープの方。

 これは一瞬なのか、それともものすごく長い期間なのか、それは分からないが、少なくとも動機が荒々しくなり、妙な興奮が襲ってくる。

 あれ?ニオってこんなに可愛いかったっけ?

「んぁ~久々にやってやったわ」

 ニオは凄く満足げに微笑む。

 え、何急に?僕らってそういう関係だったの?どういう事なの?

「確かに久々に見ましたね。2か月は見てない気がします」

 すごく冷静に返すハタ。2か月って反応に困る微妙な期間だ。

「キスすれば記憶戻るかなーって」

 そんな童話の王子様お姫様じゃあるまいし。

「ニオにしては冴えてますね。唇が触れ合うのは脳に強い刺激を与えますから」

「いっそ本番までやってしまえば?」

 そうマクマは笑う。

「いいですね。それで記憶が戻れば万々歳です」

 なぜかハタも肯定的だ。

「そうするわ!」

「えぇ⁉え、嘘!」

 男が3人も居るのに、馬乗りで徐に服を脱ぎだすニオ。

 ちょっと急すぎて何をどうすればいいか分からない。というか足動かなくてどうもできない。

 ニオは服を脱ぎかけた所で手を止めた。

「言っとくけど2人は入れないから。クゥシに言う事ないならさっさと出て行く」

 その言葉にマクマとハタは立ち上がる。

「言われなくても子供のじゃれ合いに付き合う気はないですよ」

「うっさい早漏!」

 ニオの言葉に手を払いのけながら立ち去るハタ。

「そうそう。俺達には嫁も子供もいるしな」

「うっさい粗チン!」

 律儀にマクマはベッドの周りのカーテンを閉めていく。

「あ、そいうえばクゥシにも嫁が居たっけか」

「えぇ⁉」

 去り際にとんでもない事を吐き捨てていくマクマ。

「ニオが僕の、お嫁さん?」

「クゥシだったら、お嫁さんになってもいいよ?」

 可愛げに頬を染めるニオ。

 お嫁さんになってもいいという事はお嫁さんではないわけだ。

「えー、という事はこの行為は」

「ふ・り・ん・♡」

「のおおおおおおおお」

 もうニオの行動は止まることを知らない。

 遠くから微かに声が響く。

「この部屋までの廊下はドアを理由に封鎖しましたんでー!でも窓もドアも開いてるから声丸聞こえなのでー!また昼頃来ますー!」

「はーい!」

 元気に返事を返し服を脱ぎ脱ぎするニオ。僕を見て嬉しそうに微笑み顔を近づける。

「クゥシ、捕まえた♡」

 ねっとり耳元で囁いたニオは、何もできない僕をじわじわともてあそび始めるのだった。

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